このパンがすごい!

豪快で緻密、ありえない完成度のパン/スドウ

このパンがすごい!

ぱりぱりにしてむにゅむにゅなクロワッサン

■ブーランジェリー スドウ(東京)

 「すごいパン」とは、「ありえない」ということだ。「ありえない」とは、同居するはずのないあれとこれが同時存在することだ。ブーランジェリースドウのクロワッサンはまさにそういうものなのである。

 鼻を直撃する発酵バターの芳醇な香り。ただぱりぱりなだけではなく、濃厚な香ばしさを放つ外皮の数枚下が、もうやわらかくてむにゅむにゅしている。ぱりぱりとむにゅむにゅのありえない呉越同舟。それは耐えがたい快感を引き起こす。さらに、むにゅむにゅはすぐ溶けはじめてとろとろに至り、やがてはバターが溶けて流れてじゅるじゅるとなりながら、乳のえもいわれぬ甘さが発散される。オーブンの火に近いてっぺんはコーヒーのようにほろ苦く、ミルキーさのじゅるじゅるとの間で、カフェオレ的マリアージュが巻き起こる。

 クロワッサンを裏返して底を見よ。濃褐色のかりかりがきらきら光っているではないか。バターが焼ける間に底へと垂れ落ちて集まり、オーブン内で天板と触れ合ううちにキャラメリゼされたのだ。飴のように、細かに割れたかと思うとじゅわっとキャラメルの甘さが汁気となってあふれだす。焦げる寸前の一瞬に最高のおいしさはあり、ブーランジェリースドウのクロワッサンとは、その瞬間の焼き加減・発酵具合を極めているのだ。

このパンがすごい!

クロワッサンの断面

 クロワッサン生地はさまざまなヴァリエーションへと流用される。パン・オ・ショコラでは、ベルギー産高級クーヴェルチュールチョコと邂逅して息をもつかせぬせつない味わいへ化ける。秋限定の「熊本県産和栗のデニッシュ」では、極上のマロンペーストが包まれ、うまいうまいでわしわし食べ進んでいくなら、中心に鎮座する栗の渋皮煮と出くわし、うれしい悲鳴とともにダブルのマロン味に酔いしれる。

 もうひとつ、「ありえない」の例を示そう。那須粗挽きソーセージの豪快タルティーヌ。宇宙戦艦ヤマトかイージス艦か。水平に切ったバゲットにのったダブルのソーセージと極厚のナス。そこから豊潤に降り注ぐジュース。ソーセージからぬらぬらと脂がしたたり、ナスからもじゅわりと汁。なんとも甘いきたあかりのマッシュがそれを吸い取って、自らを旨味の貯金箱とし、ホワイトソースの潤いとミルキーさがマッシュとパンをつなぐ。以上が口の中でくんずほぐれつ混じり合っておいしくなって、まるで厨房が口内にあってライブで調理されるかのようなのだ。

豪快で緻密、ありえない完成度のパン/スドウ

那須粗挽きソーセージの豪快タルティーヌ

 メニュー名にあるところの「豪快」。どのパンにもてんこ盛りに具材が盛られて、ブーランジェリースドウの代名詞となっている。季節野菜のフォカッチャには7、8種類もの野菜がどかんと盛られ(秋ならばレンコン、ナス、里芋、さつまいも、カボチャ等々)、旬の野菜をフルコンプする勢いだし、「オレのあん発酵バター」における、あんこと発酵バターの量も半端ない。

豪快で緻密、ありえない完成度のパン/スドウ

季節野菜のフォカッチャ

 でも、本当に「ありえない」のは、豪快の裏に「緻密」が潜んでいることだ。あの「那須粗挽きソーセージの豪快タルティーヌ」において、大きく切ったナスを生地の焼きあがりと同時ゴールさせられるのは緻密な逆算ゆえ。須藤秀男シェフは大いなるサービス精神によって豪快を装っているけれど、こんなに緻密なパン職人はそういない。店内にあるパンのうつくしさでわかる。どのパンもほぼ同じ形。発酵によって伸びゆくパンにおいて、同じ形など本来「ありえない」。なのに、彼はぶれずに毎日同じ仕事を繰り返す。

 「当たり前のように毎日当たり前のことをやる。2時間で絶対パンチ(ガス抜き)する。25分間オーブンで焼く。毎日毎日、絶対同じ状態に生地をもってくるのはむずかしい」

 25分間焼くべき生地が26分や24分になるのが日常であるパン作り、それができるのは、とんでもなく「緻密」な仕事が積み重なってこそ。クロワッサンをはじめとするパンたちが、ありえない完成度を誇っているのはそういうわけだ。

豪快で緻密、ありえない完成度のパン/スドウ

オレのあん発酵バター

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須藤秀男シェフ

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ブーランジェリー スドウ

■ブーランジェリー スドウ
東京都世田谷区世田谷4-3-14
03-5426-0175
9:00~19:00(日月休、火不定休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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