花のない花屋

毎日泣いてばかりいた私から、大好きな娘と夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
田沼葉子さん(仮名) 33歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

今年2月、初めての出産で娘を授かりました。つわりもほとんどなく、妊娠、出産ともに順調でしたが、出産を終えた翌朝、担当医に呼ばれました。そこで、私の娘は左眼がない“小眼球症”の可能性があると告げられました。1万人に一人の原因不明の突然変異です。

生まれたばかりの娘と対面したときは、確かに片目をつぶっていましたが、まさか眼球がないとは思いませんでした。合併症が心配とのことで、出産した翌日に娘だけが救急車で専門病院へ運ばれていきました。

正直、母親になったばかりの私にはショックが大きく、毎日泣いてばかりいました。病院でじっとしていると悪い方にばかり物事を考えてしまい、事実を受け止められるまでに、家族の中で一番時間がかかってしまいました。

そんなとき、夫に言われた言葉が忘れられません。

「まず『普通』としてできることを望まない。この子の『個性』として考えよう」

正直、最初はそんなこと言われても……と頭ではわかっても、心がついていきませんでした。でも時間とともに、徐々に夫の言葉が心に入ってきました。

娘は、幸いにも合併症はなく、元気に育っています。先日仮義眼を初めて入れ、年内には正式な義眼が入る予定です。義眼はあくまでも美容目的で、視力が戻ることはありません。でも、新しい顔との出会いは、親にとっては第2の誕生くらいにうれしいものです。右眼を大事にして、美しくすてきな世界を一緒に見ていきたいと思います。

私たち家族はまだ始まったばかりですが、これからの人生の色々な局面で、夫からもらった言葉に支えられると思っています。大好きな娘と夫に、家族がしっかりと前を向いて進んでいけるようなすてきな花束を贈りたいです。

娘の名前は「葵生(あおい)」です。花言葉が好きなのと、葵の漢字の中に天が入っているので、伸びやかに生きて欲しいと夫婦で考えました。できれば葵科のお花を入れていただけたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

僕にも小さな子どもがいるので、エピソードを読んでぐっときてしまいました。とにかく「元気に育ってね」という思いをぎゅっと込めて、アレンジを作りました。

今回はインパクト重視です。見える方の目で、少しでも花を見て、感じて欲しかったので、選んだのは赤。大ぶりのダリアや菊、ピンクッションをいくつも入れています。その他、ヒメヒマワリ、ケイトウ、マリーゴールド、ガーベラ、トルコキキョウ、バラ、ナデシコ、ランなど大小さまざまな花を使っています。葵科の植物はベニアオイの実を入れました。外へ向かっていくイメージだったので、リーフワークはあえてはずしました。

ご主人の「個性として考えよう」という言葉は、文字だけみればその通りですが、こういう状況ではなかなか言えることではありません。すごいことです。3人ですてきな家族を作っていってくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

毎日泣いてばかりいた私から、大好きな娘と夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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