ファッショニスタの逸品

「普通」を大切に、今の空気を作っていく 伊藤 弘さん

  


伊藤 弘さん(撮影 石塚定人)

グルーヴィジョンズ、通称「グルビ」。渋谷系カルチャーが隆盛を極めた90年代に、ピチカート・ファイヴ、東京スカパラダイスオーケストラ、スチャダラパーなどのCDジャケットのデザインを数多く手掛け、グルビのポップで色鮮やかな世界観が時代を席巻した。

  

「chappie(チャッピー)」というキャラクターが発表されたのも1995年だから、ちょうどその頃だ。顔をパーツ化し、ヘアスタイル、ファッション、性別、国籍までもが変幻自在。ポップなアイコンは若い世代に爆発的な人気となった。当時チャッピーの等身大マネキンが話題になり、1999年には“歌手”としてCDデビューを果たした。シングル3枚、アルバム1枚をリリースしたが、そのブームのほどがうかがえる。

それから20年が経過した今夏、そのチャッピーがiPhoneアプリとして再び我々の前に登場した。これは100種類以上のパーツから好みの目やヘアスタイルなどをセレクトし、自分の似顔絵を作成するというもの。SNSやアドレス帳の自分のプロフィール欄にオリジナルのチャッピーをアップできるという仕掛けだ。

  

「今年は3年ぶりに展覧会を行い、7年ぶりの作品集も出版しました。いろいろと動きがあって、チャッピーのアプリ化もその一環だったんです。反響が大きくて意外でしたが、90年代、チャッピーによって僕らは認知されたこともあるのでうれしかったですね」

そう語るのはグルーヴィジョンズ代表の伊藤弘さん。もともとグルーヴ・クエストという名で京都拠点に活動し、FPMの田中知之さんらとDJやVJのイベントで一緒に多くの仕事をすることがあった。その後、ピチカートの小西康陽さんとの出会いから、東京の仕事が急増。グルーヴィジョンズと改名したのもこの頃だ。ちなみに名付け親は小西さんだったそうだ。

  

「あの頃は同じカルチャーをベースにする仲間たちと一緒に仕事をしていた感覚。もう。今では大手企業のクライアントが増えて、キャップをかぶったままでの打ち合せもなかなかしづらくなっていますね」と伊藤さんは少し苦笑する。

モダンな3階建てのオフィス空間の1階部分には、スタッフたちが通勤で使う自転車が並んでいる。自身も自転車好きとして知られ、月に一度は、ひとりでロングライドに出かけるという。「先日も電車を使わずに自転車で甲府まで行って1泊して帰ってきましたよ」。
そんな伊藤さんに、ご自身の愛用品のことやプライベートのことを聞いた。

時代の流れの中でグルーヴィジョンズの世界観を

――今日掛けているメガネもこだわりがありそうですね。
 これはドイツの〈マイキータ〉というブランドのもの。紫外線の量によって変色するレンズを装着しているので便利です。デザインはスポーティーだけど、日常でも使えるし。

――着ていらっしゃるシャツはどちらのものですか。
 これは〈ディガウエル〉のシャツです。ほんとうは毎回、同じ物を買いたいんだけど、今はいろいろなブランドの白シャツを着ています。

――ファッションは昔と変わっていますか。
 ずっとこんな感じです。中高生くらいから。基本、白とかグレーとか紺とか。たぶんファッションにそれほど重きをおいていないんです。あんまりそこに楽しさを期待していないというか。ある程度清潔で普通で、楽なものであればいいと思っています。

――でも「普通」ってなかなか難しいのでは。
 そうですね。普通でいいのに、それがあまりなかったりします。じゃあ普通って何かと言われると難しい。時代によっても普通って変化するから。例えば、定番に見えるシャツもパンツも細かくチューニングされていたりしますし。あとは、ロゴやグラフィックが付いていないものを探しているような気がします。

――見つけるまで探しまわりますか。
 いや、そういうものが見つかったら買うって感じですね。なんとなくいろいろ見ていて、出会ったら買う。別にそれはファッションに限らず、もの全般に僕の「普通」の基準があるんです。

――ご自宅には物はたくさんあるほうですか。
 似たようなものが多いですね。レコードや本、あと自転車がなぜか9台ほど。アウトドア関連のギアなどは、フリーマーケットをやるようになってから相当減りました。

――伊藤さんは欲しい物は買いたくなるほうですか。
 僕は物が欲しくて買っているというよりも、リサーチの一環だと思って買っています。買わないと分からない情報が物自体にはあるような気がしますね。だから実はそんなに物に愛着はない方だと思います。

――昔から変わらず使い続ける物はありますか。
 もちろんありますよ。それは自分にとって本当に便利だったり、相性が良かったりするものですね。

――自転車歴は何年くらいですか。
 10年くらい前からですね。いわゆる移動じゃなくて、スポーツとして乗りだしたのは。

――自転車をコレクションしたりはしないんですか。
 ふだん乗っているのは3台くらいで。フレームもたくさんあって、家に転がっていますが、基本的にコレクター気質ではないので、自転車もどんどん手放していきたいですね。

――でも、趣味はやはり自転車ですよね。
 自転車の取材が多かったりするので、ものすごくやっているように見えますが、意外とそれほどでもないんですよ。たとえば最近、コーヒーとかビオワインとかポートランドとか、僕にとっては、そうしたキーワードとあんまり変わらない感覚です。

――ひとつのカルチャーだと。
 そうです。自転車もアウトドアも、なんとなく時代を象徴するエッジの部分が見えたりするわけです。自分にとっては、映画を観たり音楽を聴くのと変わらない。その時代だから面白い物ってあるし、そこに今の時代のヒントがあると思っています。

――それは面白い視点ですね。
 でもその一方で、スポーツは体を使うものだから、頭で想像しているだけでじゃ体感できない。山も川も危険ですし、肉体的な限界もある。そのへんのリアルさっていうのが面白いなあと思います。

――グルビというと多岐な活動で知られます。
 そうですね。でも昔ほど何でもかんでもはやらなくなりました。なかなか簡単には手を出せないなと思うことが増えたというか、そういう考え方に変わってきました。いらない知恵がついて少し臆病になったのかもしれません。

――でも、次は何をするんだろうという期待感はありますけど。
 いまも守備範囲は広いかもしれないけど、フォーカスしている部分は逆に狭いかもしれないですよ。

――現在のスタッフは何人くらいですか。
 10人くらいです。中心は僕を含めて3人。立ち上げ当初から一緒にやってきたので、もう長いつきあいですね。

――だからこそ、グルビの世界観はしっかり保たれてきたのですね。
 僕らは結局、空気感を演出するのが仕事ですから。デザインのためのデザインにならないよう、クオリティーを保ちながら続けていきたいですね。

(文 宮下 哲)

    ◇

伊藤 弘(いとう・ひろし)

1993年に京都でデザイン・スタジオ、groovisions設立。ピチカート・ファイヴのステージビジュアルを手掛け、注目を集める。97年以降、東京を拠点に移動。以降、グラフィックやムービーワークを中心に、音楽、インテリア、ファッション、出版など幅広いクリエイションを行う。
http://groovisions.com/

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知らないものを、知らない人とつくりたい 伊藤直樹さん

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