このパンがすごい!

素材のおいしさが染み渡る、感動の個性派パン/パーラー江古田

パーラー江古田(東京)

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 湘南小麦のパンと金時豆のズッパ(スープ)をパーラー江古田で食べたとき。香ばしさやコクに満ちた全粒粉のパン、あたたかで滋味深い液体が胃の腑に落ちていくと、疲れていた全身に再び力がみなぎっていった。素材そのもののおいしさ。それを活かした料理には、心の底から湧きあがるような感動があると、私は改めて気づかされたのだ。

 パーラー江古田のパンはどれも黒光りしそうなほど濃厚な焼き色をしている。小麦が焦げる寸前に放つ、最後の、最大の輝きを狙って、高温で焼き上げられるぶ厚い皮には、ナッツのような香ばしさ、甘さがあり、食感はかりかりとクリスピー。ぎりぎりのところで潤いを残した中身にも「第二の皮」と呼ぶべき味わいの強度があり、主張のある具材ともおいしさを競って争いあう。

 パーラー江古田とは青カビチーズのような店だと思う。最初は強烈な個性にたじろぐが、一度魅力にはまると抜け出せない。深煎りの苦いコーヒー、果実味や酸味や苦みなど未知の風味に満ちた自然派ワイン、重いパン…。どこを切っても、店主・原田浩次さんのぶれない意志が血のようにあふれだす。

 カシューナッツと黒胡椒というパン。常識を超えた量の黒胡椒から放たれる、鋭利な刃物で切り裂くようなキレキレの辛み。粗く挽かれた黒胡椒の断片から香りが、さまざまなニュアンスとタイミングで立ち上がる。黒胡椒が実はこんなにカラフルな香りに満ちあふれていたという感動。それは他の具材をかき消さず、むしろカシューナッツの甘さをなおさら引き出す。それらが安心して暴れまわれる土台となるのは、味わいに満ちたパン。長い発酵が生みだした生地からは、クリームチーズを思わせる甘ささえ感じる。

 レーズンくるみは、自分史上もっともワインが飲みたくなったノアレザンだ。ごつごつした見かけに相反し、レーズンが赤ワインの潤いに満ちてきらきら光っている。弾けた果汁はパンの中身に染み、麦が放つ草っぽい香りを極彩色の甘酸っぱさに彩る。ワインの芳香は喉でぎらぎらするほど激しく、くるみの香ばしさ、甘さも際立たせる。最高のワイン、ナッツ、パンをいっぺんに味わっているような体験なのである。

 パーラーは今年木造民家を改造した新店舗に移転し、ワインセラーや肉の熟成庫を備えることになった。豊富なワインを揃え、塊で買った肉をリエットやハムやパテに。中でも私の垂涎の的は、チーズの冷蔵ケースである。岡山の吉田牧場や広島の三良坂フロマージュなど国内各地から直送されたものや、VIA THE BIOというインポーターが輸入したヨーロッパのチーズなど一癖二癖ある面々。その中から好きなチーズを好きなパンにはさんでサンドイッチをカスタマイズできる。これこそ、あらゆるパン&チーズ好きが待ち望んだシステム。心躍る贅沢を前に、チーズを差す指が迷って迷って止まらない。

 ウブリアーコ・アル プロセッコというイタリアのチーズからは、パルミジャーノみたいな甘さや熟成感とともに、青りんごや青いぶどうに似た香りが舞い上がった。それもそのはず。白の発泡ワイン「プロセッコ」でウォッシュして熟成させているからだ。フランスパンにはさんでもらって食べると、パンとチーズとワインのマリアージュがサンドイッチに先取りされていた。ぶどうと小麦とミルクのなんという仲睦まじさ。青い果実感がパンの皮にクルミのような香りがあることに気づかせ、中身はチーズと一体にクリーミーにとろけ、チーズとワインの発酵の香りは小麦の味わいと、こよなく、この上なく合う。私は、チーズと硬いパンというバタ臭い組み合わせを、まるでお茶漬けを食べるみたいな身に染みよう、腑に落ちようでむしゃむしゃ食べた。これが、素材の感動が生み出すおいしさなのだ。

パーラー江古田
東京都練馬区栄町41-7
03・6324・7127
8:30~18:00(火休)
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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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