花のない花屋

「つらい1年」支えてくれた叔父と叔母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
ヒル恵太さん 23歳 男性
カナダ在住
ビジネスコンサルタント

    ◇

僕の父はカナダ人、母は日本人です。カナダのイエローナイフで生まれ、北米を転々としながら育ちました。父が日本語を解せず、住んだ街に日本人がいなかったことから、10歳までは日本語をまったく知らずに育ちました。

9歳のときにフランス語学校に通うようになると、日本語もわかったらいいなと思い始め、母に相談すると、「日本の叔父さんのところにホームステイをして、文化と言葉を学んでみたら」と提案が。さっそく翌年、10歳から11歳までの1年間を日本で過ごすことになりました。

僕は旅行に行くようなつもりで、わくわくしながら日本の小学校に編入しました。でも、実際の日本の生活は、想像したような楽しいことだけではありませんでした。まず言葉。僕が知っていたのは「こんにちは」と「さようなら」くらい。みんなが何を言っているか全然わかりません。とはいえ、3カ月もすればだいたいわかるようになりました。なかなか慣れずに辛かったのは、学校や社会のルールや考え方です。先生に言われた通りにやらないとすべて「ダメ」。決まったやり方でないと認められないことに、いつも違和感がありました。掃除の時間があったり、宿題が毎日出たりしたことも驚きでした。

みんなの算数のレベルが高かったことはショックでした。僕はカナダでは飛び級をしていて、成績もA+だったのですが、向こうには九九がありません。九九がわからない僕は、トップからいきなりビリになったようなものでした。

カナダに戻ったときはほっとして、「もう日本には行きたくない」という気持ちになりましたが、大学生になってもう少し世界が見えるようになると、日本での経験がどれだけ自分を成長させてくれたか、どれだけ多くの人がお手伝いしてくれたのかがわかってきました。

今の僕があるのは、あのときの先生方、学校の友達、地域の人々、そして目立たないところで日々の面倒をみてくれた叔父さんと叔母さんのおかげです。そこで、叔父さんと叔母さんに感謝の気持ちを込めて東さんのお花を贈りたいと思います。

叔母さんは若い頃はパリに住み、フランスの航空会社で働いていました。68歳の今もとてもおしゃれで、塾の講師として働いています。花束は、ヨーロッパの雰囲気でまとめつつ、カナダにいる僕からのメッセージとして、カナダらしい要素も加えてもられるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回の花束は僕にとっても新しい色の組み合わせです。“アンティークピンク”や“スモーキーピンク”とでも言うのでしょうか。なんとも言えないピンクのグラデーションが大人っぽさを醸し出しています。

花束全体はパリをイメージして造りました。ダリア、ラナンキュラス、オールドローズの八重咲き、ケイトウ……。どれも何とも言えない色合いですよね。

リーフワークには、カナダらしさとして針葉樹のスギを使いました。アクセントにユーカリやカクレミノの実と葉も加えています。くすんだトーンの花に薄い緑色の葉を合わせると全体の印象がぼんやりし、枯れたように見えてしまいます。なので、ここでは濃い緑色や面白い形のものを選び、花のスモーキーさを生かしました。

花とグリーンの組み合わせによって、主役の花の印象も変わります。意識して組み合わせてみるといいですよ。

  

  

  
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「つらい1年」支えてくれた叔父と叔母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


2年前に旅立ったあなたへ

一覧へ戻る

母に届けたい、「モロッコの太陽」

RECOMMENDおすすめの記事