鎌倉から、ものがたり。

フランス流マイペース営業の、隠し味/ランティミテ

フランス流マイペース営業の、隠し味/ランティミテ

>>「ランティミテ」前編から続きます

 鎌倉市御成町にあるフレンチビストロ「ランティミテ」は、その名の通り、親密な雰囲気の中で、肩ひじを張ることなく、本格的なフランス料理を味わえる店だ。

 「シンプルでうまい」を旨とする料理の迫力は、前編で記した通り。火曜から金曜は12時から18時、土日は12時から14時と、18時から20時30分(いずれもラストオーダー)。月曜定休で、ケータリングやイベントが入ったら、店を休む。マイペースを守るやり方は、シェフの山内裕樹さん(38)が料理の専門学校に在学中、修業先のフランスで体得したものだ。

 「一時期『臨時休業』が多かった時は、お客さまから『臨時営業』と言い換えたら? と言われたほどで」。山内さんは、そう笑った後で、「うーん、いいんですかね」。

 日本人は忙し過ぎる。鎌倉というゆったりした土地で愛されているなら、「それでいい」と強く肯定したくなる。

 火曜から金曜は、ランチタイムが終わった午後にも、サラダ、キッシュ、各種サンドウィッチにデザートと、魅力的なメニューが用意されている。

 シンプルでありながら、ランティミテならではの味わいが宿る料理の背景には、山内さんの経験がある。

 専門学校を卒業した後、フランス料理店、ホテルのレストラン、ベトナム料理店、イタリア料理店と、興味のおもむくまま、さまざまなレストランを渡り歩いた。赤坂のカリフォルニア料理店でシェフを務めていた時に、さらなる扉を開く出会いがあった。フランス・ボルドーでワインの輸出を手がけるドイツ人から、彼が企画する日本料理店のシェフに誘われたのだ。

 場所は古都のマラケシュ。モロッコは修業したフランスと、歴史的、文化的につながりが深い。ヨーロッパからの観光客を多く迎え、アーティストもたくさん住んでいる。奥さんの由美子さんともに、ぐっと前向きになった。

 マラケシュでは初の本格的な日本料理店。渡航する前には1年間、割烹料理店と寿司店で、みっちりと勉強した。空気が乾いていて、いたるところにオレンジが植わっているマラケシュの光景にちなみ、「橘(タチバナ)」と名付けた店では、スタートの2006年から3年間、シェフを務めた。

 「材料の制約はいろいろありましたが、その中から日本料理を作り出していくことには、すごくやりがいを感じました。マラケシュは気候も治安もいいし、人も面白い。今でも時々戻りたいなあ、って恋しくなります」

 そう話す山内さんのかたわらで、由美子さんが言葉を添える。

「インテリアに使う障子などは、モロッコには当然ないですよね。ドイツ人の経営者には、フランス人のパートナーがいたのですが、その人が器用な人で、いろいろな材料を手に入れて、障子や照明を作り出してくれたんです。和食用の器も、モロッコの土を使って焼きました。そういう工夫のあれこれが楽しかった!」

 その後、日本に帰国した山内さんは、不動産会社のフード事業部門に勤めて、カフェの立ち上げやメニュー構成、レセプションパーティのケータリングを手がける。経験は十分に積んだ。次はいよいよ独立だ。茅ヶ崎市で生まれ育ったので、立地は湘南。最初は海の方から探したが、やっぱり店は人が賑わう街中がいい。「だったら鎌倉だよね」と、由美子さんと二人で見つけたのが今の店だ。 

 「高校3年生の時、進路指導の先生に『料理の道に進みたい』と話したら、放課後に雰囲気のあるフランス料理店に連れていってくれたんです。そのことも思い出として、僕の心にずっと残っていて……」
 そのレストランがあった場所も鎌倉だった。

ランティミテ(L’intimité)
神奈川県鎌倉市御成町13-36-5 2F
 
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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

「タルト男子」が開いた、本格ビストロ/ランティミテ

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鎌倉を、あじわう。(2)

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