あゆみ食堂のお弁当

<17>平凡な日常に突然現れた、旅する彼へ

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〈依頼人プロフィール〉
柴田ゆかりさん 28歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

学生時代、アメリカの大学に通っていました。すごく田舎の大学で、日本人はほとんどいない街でした。

ある日、学校帰りに道路脇を歩いていたら、ボロボロの自転車を押して歩いている日本人らしき男の子を見かけました。大きなバックパックを背負って、さらに自転車の両脇に満載された大荷物。聞くと、南米のほうからずっと自転車で旅をしてきたという20代そこそこの男の子でした。

驚くべきことに、彼は南米の最南端の町から旅をスタートさせて、北米の最北端、アラスカの北極海が見える場所まで自転車で行きたいのだと言いました。「日本を出て、そろそろ1年くらいになるかなあ」。呑気そうに言う彼でしたが、私にとっては信じられないくらい壮大な冒険物語に聞こえました。

運悪く、途中で自転車がパンクしてしまい、自転車屋さんを探して歩いていた彼。「自転車が修理できるまでの数日間、街のどこかでテントを張って過ごそうかと思って…」と言うので、もしよかったらと、私のアパートに滞在してもらうことにしました。

1年近く旅をしてきた彼の話はとても面白く、夜な夜なお酒を飲みながら、世界各地のことを聞きました。旅をしていて一番辛いことは、和食を食べられないことという彼に、ぶり大根や、炊き込みご飯、ポテトサラダなど、いくつか家庭料理を振る舞ったこともありました。「なつかしい、美味しい!」と言って食べてくれた姿を、今でも時折、懐かしく思い出します。

出会ってから数日後、彼は次の街へと旅立ち、それから会うことはありませんでしたが、数カ月後、アラスカから手紙が届き、無事に旅を終えたことを知らせてくれました。「あのとき食べたごはんの味、一生忘れません」というお礼の手紙、嬉しかったな。

あの日、偶然出会った旅人。思えば、あれほどおいしそうにごはんを食べてくれた人は、後にも先にも彼以外いなかったように思います。またどこかで、新しい旅をしているのかな。だとしたら、きっとまた和食を恋しがっているだろうな。

平凡な日常を、いっときパッと楽しくしてくれた旅人へ。激励の気持ちを込めてお弁当を贈りたいと思います。自転車の旅をしていても、パワーが出るようなボリューム弁当。和食の美味しさを思い出せるような味付けのおかずがあると、きっと喜んでくれると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

ごぼうとクミンの炊き込みご飯で、ホッとひと息

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クミンはほんのり色がつくまで弱火でじっくり炒めます。香りが立ってきたら、いい感じです

<献立>
ごぼうとクミンのおにぎり
鶏の黒酢照り焼き
かぼちゃのアーモンドサラダ
焼き大根
ねぎと小海老の卵焼き
れんこんのきんぴら
ほうれん草の海苔和え

<あゆ美さんのコメント>
異国で知り合った旅の途中の青年へ贈るお弁当ということで、どこか懐かしさがあって、食べるごとにホッとできるようなお弁当をイメージして作りました。

相性のいいごぼうとクミンが香る炊き込みご飯は、旅の途中でも手軽に食べられる行動食をイメージしてラップで包んでおにぎりに。ほんのり黒酢が効いた照り焼きはボリュームたっぷりで、ご飯も進みます。まろやかな甘さとアーモンドの香ばしさが美味しいかぼちゃのサラダも、食欲をそそります。

お弁当箱には、埋めると土に還る素材のものを選びました。旅で使い古して不要になったとき、どこかの道端に適当に埋めてしまってもゴミにならないように(笑)。

今度は日本で彼に会って、その後の旅の話でも聞きながら、一緒にお弁当を食べてほしいです。

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ごぼうとクミンのおにぎり/鶏の黒酢照り焼き/かぼちゃのアーモンドサラダ/焼き大根/ねぎと小海老の卵焼き/れんこんのきんぴら/ほうれん草の海苔和え

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土に還る素材でできたお弁当箱。紙ではなく、プラスチックのような硬い質感なので、洗って繰り返し使えます

(ライター/小林百合子)

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