花のない花屋

母に届けたい、「モロッコの太陽」

  

〈依頼人プロフィール〉
藤田邦子さん 45歳 女性
カナダ在住
通訳・翻訳、コンサルタント

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私が西アフリカのセネガルで出産し、モロッコに移り住んだとき、母は一人で国際便を乗り継いで孫に会いにきました。当時70歳。海外に出たのは初めてのことでした。英語もフランス語も話せず、案の定、乗り継ぎ便を間違えそうになりながらも、夜中に空港に到着した母は疲れも見せず、「みいちゃんに会いにきたわよ!」と満面の笑顔。

それから1カ月の滞在中は、まだ寝てばかりのみいちゃんにひたすら話しかけたり、あやしたり。初めての海外だというのにろくに観光もせず、「みいちゃんの側にいられればそれで幸せよ」と孫につきっきりでした。

そんな母の笑顔と高らかな笑い声に、現地にも母のファンが増え、買い物でおまけをしてもらったり、言葉が通じないのにひたすら話しかけられたり。母にはどこか言葉を超えたコミュニケーション力があり、にこにこ笑いながら自然に相手の懐に入っていきました。帰国するときは、多くのファンに涙で見送られ、彼女も涙まじりの笑顔で日本へ発ちました。

当時の行動力と度胸をほめられると、母は照れ笑いしながら「だって、みいちゃんに会いたくてしかたがなかったんだもの」と言います。

あれから10年。80歳を超えた母は膝の痛みがひどくなり、家の階段すらまともに上がれない状況になりました。今はカナダに暮らしている私たちが帰国すると、母はやはり真っ先に「みいちゃん、お帰り!」と孫に手を差し伸べます。無理をして空港まで迎えにきてくれますが、痛みがひどすぎて、翌日は一日寝込んでしまいます。

そんな、今は遠くへ出かけられなくなってしまった母へ、孫娘を思わせるような花束を届けていただけないでしょうか。

モロッコの家の庭には、色とりどりの花が咲いていました。名前はわかりませんが、強い太陽の下、どれも黄色やピンクなど鮮やかな色でした。「色が鮮やかね」「心まで晴れるみたいだね」。そういいながら、花々の間を、孫を抱きながら散歩していた母の姿が、鮮やかな花と重なります。母にとって孫娘が太陽のような存在なのと同様、私と娘にとって母は永遠に咲く大輪の花です。よろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回はインパクト重視です。アフリカの大地を思わせる色鮮やかな花を集めました。

色鮮やかといえば、やはり南国の花。太陽をたっぷり浴びて育った植物たちは、どこか肉感的、動物的で動きがあります。こうやってアレンジすると、迫力があります。

メインは、キングプロテアです。太陽のようなお母さんの象徴として入れました。その他、プロテア、ストレチア、パフィオペディラム、アンスリウム、ピンポンマム、ガーベラ、マリーゴールドなどを使っています。多肉植物もどこか動物っぽいでしょう。意図的に柄がついたものを選びました。

リーフワークはグレビリアとヒカゲカズラのミックスで。花が大柄なので、負けないように個性がありつつ、強すぎないものにしています。

鮮やかな花たちがアフリカでの思い出をよみがえらせてくれますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

母に届けたい、「モロッコの太陽」

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


「つらい1年」支えてくれた叔父と叔母へ

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