花のない花屋

妻へ。ようがんばったな。

  

〈依頼人プロフィール〉
福田 亘さん 36歳 男性
岡山県在住
会社員

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半年ほど前、妻の父に末期がんが見つかりました。妻は看護師で、小学校1年生の娘と4歳の娘がいます。ふだんから仕事に育児に家事にと忙しい日々を送っていましたが、入院してからというもの、妻は土日休みのとれない私に代わり、子ども二人を連れて病院へ通うようになりました。小豆島の病院だったので、自宅から港まで車で2時間半、そこから船で1時間。片道だけで4時間近くかかる行程です。普段の仕事も大変なのに、週末は付きっきりで看病している母を助けたり、父を看病したりと大変な日々を過ごしていました。

緩和病棟へ移ると、妻はある日、「おじいちゃんが早く元気になるように、千羽鶴を折ろう」と、小さい折り紙を1000枚買ってきました。それからというもの、夜になると子どもたちと一緒に鶴を折っていました。
そして9月中旬、とうとう1000枚の色とりどりの折り紙は1000羽の鶴になりました。子どもたちと「これでおじいちゃんも元気になるね」と話していましたが、残念ながら10月に入ってすぐ、日にちが変わって間もない時刻に義父は呼吸を止めてしまいました。

実は、妻と義父は、もともとあまり仲良くありませんでした。でも、結婚して子どもが生まれてから「こうやって自分も育ててもらったんだ」と思い、距離が近くなったと聞いています。

父親を最後まで看病し見送った妻へ、「ようがんばったな」という気持ちを込めて、東さんのお花を贈りたいです。疲れた心と体がふっと軽くなるような、お父さんとの明るい思い出がよみがえってくるような、明るい色でアレンジしてもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回の主役はなんといっても美しいカトレア。市場で見つけ、「これをぜひ使いたい!」と思い、全体のアレンジを構成していきました。

「リラックスできるようなお花を」というご要望だったので、全体はパステル調に。3種類のバラ、フリージア、エピデンドラム、カーネーション、ガーベラ、トルコキキョウなどを散りばめ、香りのブーケにもなっています。

リーフワークには小豆島のオリーブの葉と、イタリアンルスカスをミックス。病院が小豆島だったということで、こっそりとオリーブの葉を入れました。

今回は、もらったときに「わあ、きれい!」と言ってもらえるような、素直な明るさとやさしさのあるアレンジを目指しました。

花の色を楽しんだり、香りを嗅いだり……五感を使って楽しんでください。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

妻へ。ようがんばったな。

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


母に届けたい、「モロッコの太陽」

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乳がん乗り越えた母と父の「始まりの花」

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