花のない花屋

乳がん乗り越えた母と父の「始まりの花」

  

〈依頼人プロフィール〉
谷川奈緒子さん(仮名) 25歳 女性
茨城県在住
契約社員

    ◇

昨年、両親が結婚25周年の銀婚式を迎えました。父は公務員で口数が少なく、田舎の船越英一郎という感じです。一方、母はおしゃべりで華やかな雰囲気。どこか高畑淳子のようです。独身時代は美容部員で、着物やファッションに詳しく、パッチワークや花も大好きです。

そんな二人ですが、2年ほど前、父がまもなく定年を迎えるというとき、母に病気が見つかりました。乳がんでした。大学入学と同時に家を出ていた私と妹がそのことを知らされたのは、手術の前日。「お母さん、明日から入院するから」という電話を受けたときは、目の前が真っ白になりました。母はそれまで大病とは無縁だったので、まさかそんなことが起こっていたとは……。聞けば、父が一人で病気、病院、セカンドオピニオンのことなどを調べ、動いてくれていたようです。

母は乳房を全摘出し、その後、化学療法が始まりました。テレビなどで副作用の知識はありましたが、実際に髪の毛が抜けたり、 体力がなくなっていくのを目の当たりにすると、やはりいてもたってもいられませんでした。少しでも家族の力になりたく、私は仕事を辞め、実家へ戻りました。大学4年生だった妹も、ちょうど就職が決まっていない時期だったので実家に戻り、それから現在にいたるまで、ふたたび家族4人で暮らしています。

幸い、今は母の体調も戻り、私も新たな仕事が見つかり、親子げんかをするほどの日常が戻ってきています。

この12月には父の誕生日があり、その1週間後には母の再手術があります。今回は乳房の再建手術です。母にとって、そして家族みんなにとっての再出発の手術だと思っています。

昨年の銀婚式は病気のことなどとでちゃんとお祝いをしてあげられなかったので、この機会に東さんのお花を両親に贈りたいです。手術を乗り越え、新たな気持ちで夫婦の道を歩んでいってほしいという気持ちを込めて……。

母は昔から女の子っぽいものより、シンプルで品のあるものが好きなようで、結婚式の写真を見ると、白いカラーを中心としたブーケを持っていました。今回もぜひカラーをメインにした上品なアレンジにしていただければうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回はご希望の通り、シンプルな白いカラーでまとめました。ミニマムなアレンジですが、上品で華やかな雰囲気になるよう、小ぶりのカラーを扇形に重ね合わせました。横から見た姿と上から見た姿はまた違うので、いろいろな角度から楽しんでみてください。

カラーは大きいものもありますが、それを使うのはアレンジ全体のアクセントなどにしたいとき。カラー自体がメインになるときは、小ぶりの方が上品な雰囲気を出すことができます。

また、白で統一していますが、花弁の先だけほんのりグリーンが入っているものを選びました。こういうちょっとしたポイントがあると、アレンジに深みが生まれます。

かなり日持ちもするはずなので、誕生日、手術といろいろなことがある谷川家の12月にそっと寄り添えますよう。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

乳がん乗り越えた母と父の「始まりの花」

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


妻へ。ようがんばったな。

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