花のない花屋

私の生活苦をそっと案じてくれた父に

  

〈依頼人プロフィール〉
小田切瑠美さん 30歳 女性
山梨県在住
会社員

    ◇

私は23歳で結婚し、25歳で離婚しました。離婚した後も実家に戻ることはなく、そのまま一人暮らしを続け、今は新しいパートナーと新しい人生を歩んで行こうと決めています。

ただ、彼は朝早くから夜遅くまで働いているにもかかわらず、残業代はゼロ。彼の会社はいわゆる“ブラック企業”で、収入が本当に少なく、2人の生活は私の収入でやりくりしています。

私は3姉妹の末っ子で、母は10年前に他界。父は電気工事士で、一人で自営業を営んでいます。昨年亡くなった認知症の祖母と、長女の一家と暮らしていました。父の生活も大変であることはわかっていたので、私が生活苦であることは父には一切話していません。

けれどもある日、用事があって父と電話で話していると、いきなり「お前も生活が苦しいだろう?」と言われ、びっくりしました。あわてて「そんなことないよ、大丈夫」と答えました。父に無用な心配はかけたくありません。でも、そんな嘘は父にはお見通しだったのでしょう。

数週間後、これからお金のやりくりをどうするか、記帳して考えようと思い、銀行で記帳すると……。なんと父から5万円の振り込みがありました。一人で自営業をしている父が、それだけのお金を稼ぐのがどれだけ大変か……。言葉になりませんでした。

そんな父に、日頃の感謝を込めて、母の分も長生きしてもらえるよう、お花を贈りたいです。亡き母は、スズランや瑠璃色のような青い花が好きでした。母が好きだったお花を入れて、母をも思い出せるような花束にしてもらえれば幸いです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回ははっとするような瑠璃色でまとめました。もともと花には青い色が少ないので、とてもインパクトのあるアレンジです。

男性はおそらく花をもらうことには慣れていないと思うので、華美になりすぎないように注意しつつ、インパクト重視で作りました。特に今回は娘から贈られる花です。花は枯れてしまっても、もらったときのうれしさはずっと残るもの。記憶に残るような花束にするためには、もらったときのインパクトが重要です。

使った花材は、アイリス、リンドウ、アゲラタム、エリンジウム、デルフィニウムなど……。リンドウやデルフィニウムは枝に沿って縦に花がつくので、花の部分だけを短く切って、細かく差しています。少し加工するだけで、見え方ががらりと変わります。お父さんの反応が楽しみです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

私の生活苦をそっと案じてくれた父に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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