花のない花屋

心に深い傷を抱え、子育て奮闘中の姪に

  

〈依頼人プロフィール〉
佐藤浩子さん 72歳 女性
山口県在住
年金生活者

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姪は、幼い頃より母親のDVで傷ついていました。身体的な暴力ではなく、言葉の暴力です。

母親は学校の先生でしたが、仕事がない土曜日や日曜日になると、毎週のように姪に「そこに座りなさい」と命じ、4時間ほど“説教”をしていました。しかしその内容が尋常ではありません。「あんたには価値がない」「産まなきゃよかった」等々、ひどい言葉が次々に彼女に投げかけられていたのです。母親は娘が傷つく言葉をわざと選び、その“説教”は、彼女が泣き出すまで続きました。

姪は母親に認められようと、学校で作文や絵を頑張って表彰されたこともありましたが、母親は無関心。中学に入ってからは、さらに言葉で徹底的に否定され、「聞き流さないと生きていけなかった」と言います。

他にも、学校で必要なお金をなかなか出してくれなかったり、お腹が痛いといっても病院へ連れて行ってくれなかったり……。私は、月に一度は姪を外に連れ出して食事をし、いろいろな話を聞いてきました。

高校2年のときには、突然母親がマンションを買って出て行き、その後両親は離婚しました。それ以来、今にいたるまで母娘の関係は絶ったままです。

そんな状況でも、姪は勉学に励み、大学に進学。大学でできた親しい友人に「この人なら」と母親との葛藤を話したら、「母親のことを悪く言うなんて」と友人関係が壊れたそうです。今でこそ育児放棄やネグレクトなどへの理解が進みましたが、高学歴の母親のDVは、子どもの方が悪いと受け止められていました。

親元を離れた20歳の頃の姪の苦しみは尋常ではなく、毎週のように長い長い電話がかかってきました。その当時、幸いなことに私の他に彼女を支えてくれる人がもう一人いました。卒業後、姪はその人と結婚。子どもを産むことはかなり悩んでいましたが、彼に支えられ、今では3歳と1歳の男の子の母親になりました。日々の暮らしの中で行事があるたびに写メールが送られてきます。

「この子たちの誕生に感謝してるんよ」という姪。今は専業主婦で子育てに奮闘中です。知人のいない土地でしっかりと根を張って生きているのを見ると、感無量です。頑張りすぎてバテないよう、叔母から姪へ心がほっこりするような、ピンク系のやさしい雰囲気のお花を贈りたいです。

深い心の傷は簡単には癒えません。それでも、何かをきっかけに少しでも過去の苦しみを乗り越える力になったらと願ってやみません。

  

花束を作った東信さんのコメント

本当に大変でしたね……。エピソードを読んで衝撃を受けました。とにかく美しい花束を贈りたかったので、ご希望のピンク系で、花の持つ美しさを感じられるようなアレンジを目指しました。

メインはピンクのグラデーションのダリアです。こんなに美しいダリアは滅多にお目にかかれません。そのまわりに、カラーやバラ、エピデンドラム、ラナンキュラス、ガーベラ、カーネーション、セダム、トルコキキョウなどを差しました。

リーフワークの代わりに、縁にはピンクのスイートピーをたっぷりと。やさしくて甘い雰囲気を出したかったので、かなりたくさん入れました。ふんわりといい香りがするはずです。

淡い色のアレンジなので、ところどころに濃いめのピンクを入れ、陰影をつけています。アクセントがないとのっぺりしてしまうので、濃い色を入れて立体感を出しているのです。

心の傷というのはなかなか癒えることはないと思いますが、とにかく美しいものを見て、明るい方へ進んでいって欲しいです。花や植物は生命のかたまり。その美しさは人をいやしてくれます。植物と接すると、精神的にいいことがたくさんあるので、もしお好きだったら、ぜひお花や植物を生活に取り入れてみてはどうでしょうか。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

心に深い傷を抱え、子育て奮闘中の姪に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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