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<33>クラウドファンディングから始まった、つながる図書室

<33>クラウドファンディングから始まった、つながる図書室

 渋谷・道玄坂の雑居ビルの一室にある「森の図書室」。ここは、オーナーの森俊介さん(31)の理想を具現化した“私設図書室”だ。といっても、BGMが流れており、飲食は自由。会話もOK、本の世界に没入するもよし、本好き同士で語らうもよし。その自由さが心地いい。

 広告会社で働いていた森さんは、社会人になってからずっと渋谷で暮らしている。店の場所に渋谷を選んだのは、愛着があるというのはもちろんだが、多種多様な人が集まる街なので、いろんな人に本を読むきっかけが作りたいと考えたからだ。

 会社を辞めて準備を進め、オープンの約2カ月前、ネット上で資金を募るクラウドファンディングサイトに、この店の構想を投稿した。目標金額は10万円。

「10万円にしたのは、設定できる最低金額だったから。ウェブ上に情報を載せるにはすごくお金がかかるし、必ずしもその費用に見合った効果があるわけでもないと思うんです。だから、資金集めのためではなく、お金をかけずにみんなに知ってもらえたらと思いました」

 ところが、わずか2日後に100万円、最終的には1797人から約1000万円の支援が集まった。なぜ、これだけ多くの支持を得られたのだろうか?

「それ、よく聞かれますけど全然わかりません(笑)」

 もともと森さんは自分のことを話すのが好きではないという。

「夢は人に話すと叶うよく言いますけど、苦手なんです。人に話してとやかく言われたら……、と考えてしまいます」

 しかし、クラウドファンディングで自分のやりたいことを表明したら、見ず知らずの人たちが出資という形で応援してくれた。そのことに森さん自身が一番驚き、喜びを感じた。ただ、同時に不安も湧き上がった。

「僕が作ろうとしている図書室と、出資してくれた方のイメージは必ずしも一致しないんじゃないかと思ったんです。それが不安でした」

 もちろん、すべての人の要望に応えることは現実的に難しい。しかし、森さんは自分がやれることをやるしかないと思っている。

 幼少期から本が好きで、1年に100冊は読んでいるという森さん。店内の書棚は、本人の私物と、20代前半から記録している読書感想ノートを読み返して面白かった本を買い揃えたところからスタートしたが、蔵書数はどんどん増えている。

 同店では会員になれば席料の500円が無料になるのと同時に、自分が一番好きな本を持ち込んでメッセージ付きで本棚に置くことができる。そのため、森さんがまだ読んだことのない、誰かが好きな本がたくさん集まってくるようになったのだ。

「いろんな人の本がこの図書室に集まるようになったのが、クラウドファンディングをやって一番よかったこと。本棚を何回見ても“こんな本があったんだ!”という発見がありますし、何より自分自身が楽しいんです」

 オープンから約1年半。評判が広がり、3月18日には表参道ヒルズにも「森の図書館」ができることになった。クラウドファンディングをやっていた頃には予想もできなかった展開を見せている。

「本で人がつながるというコンセプトは同じ。本を読みたくない人に無理に勧めることはないけれど。本を読みたい気持ちがあるのに読めていないのはもったいないと思うから、そういう人にきっかけを作れたら、と思っています」

おすすめの3冊

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『ぼくと1ルピーの神様』(ヴィカス・スワラップ)
映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作。難問を全問正解したがゆえに、不正を疑われて逮捕された少年。無学なはずの少年はなぜ答えを知っていたのか? 「お店ではドリンクのコースターに本の紹介文を載せています。紹介今回紹介する3冊は、その中から選びました。この本は映画を見た人ほど本が楽しめます。絶対」

『ぼくのメジャースプーン』(辻村深月)
小学生の男の子が、風邪をひいて飼育当番を変わってもらったばっかりに、幼馴染の女の子がうさぎ惨殺の現場を発見し、ショックで口が聞けなくなってしまう。実は超能力を持つ男の子が取った行動とは? 「優しくて強い、罪と罰の物語。今までで1番、人にプレゼントしたことが多い本です」

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(米原万里)
1960年のプラハ。小学生のマリはソビエト学校で個性的な友だちに囲まれていた。30年後、激動の東欧で三人の親友を捜し当てたマリは――。「人間、教育、政治、世界。それらをありのままに、そしてありのままゆえに複雑だということを感じさせてくれる本です」

(写真 山本倫子)

    ◇

森の図書室
東京都渋谷区円山町5-3 萩原ビル3F
http://morinotosyoshitsu.com

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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