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<35>グラス傾け本に酔う 女性店主の古本バル

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 酔いに任せて本の世界に浸る――。
 東京・西荻窪の「古本バル 月よみ堂」は、酒と本が大好きな一人の女性がつくった、酒と本好きの人のための空間だ。

 店主の首藤七緒さん(32)は、決して思いつきや勢いだけでこの店をオープンさせたわけではない。

 「35歳くらいまでには、これが私の仕事と言えるようなものを持っていたかった。性格は大雑把ですけど、目標設定して、マイルストーンを置いて準備を進めていました」

 動物病院に勤務後、一般企業へ転職したのは20代半ばのこと。開業資金を貯め、自分が行きたいと思うお店を想像してみた。お酒と本が大好きなので、お酒が飲めて本も読める店があったらいい。でも、バーは暗すぎて本が読めないので困る。酒やつまみが充実していて、一人でも気軽に入りたい。週に数回通えるような手頃な値段だとうれしい……。

 そうやってイメージを徐々に具体化していき、構想から約6年後の2015年4月に店をオープンさせた。会社をやめたあとの1年間は古本屋で修行したり、飲食店のアルバイトで経験を重ねておいた。

 店の場所を西荻窪にしたのは、好きな街で好きなお店を開きたかったから。首藤さんは味のある飲み屋や古本屋などが点在するこの界隈に住みはじめ、居心地の良さを感じていた。

 店は入り口に近い側に本棚が並んでおり、ここだけ見れば古書店のようなたたずまいだ。奥に進むとカウンターのあるバルの空間となっている。日中は近所の人が店内をぐるりと一周して古本を買って帰り、日が暮れるにつれ、奥のカウンターで一杯ひっかける人が次第に増えていく。カフェメニューも一通り揃っているので、お酒が飲めない人はコーヒーで楽しむこともできる。

 「古本屋だけでも機能させたかったので、古本コーナーとバーコーナーを分けることにしたんです」

 しかし、本と酒が好きな人なら、ふらふらと店の奥へと吸い寄せられるに違いない。カウンターにはウイスキーや日本酒などの瓶が並び、カウンター内では首藤さんが手際よくおつまみを作ってくれるからだ。店は14時から営業しているので、昼から飲むことだってできる。

 「実は家呑みも大好き。開店資金を貯めていた頃は、よく自分でつまみを作ってお酒を飲みながら本を読んでました」

 首藤さんは、「酔いの深さで読む本を変える」という。

 「ストーリーを楽しむ小説やミステリーなどは酔っ払いすぎるとついていけなくなるので読みません(笑)。酒に関するエッセイや、つまみの本を読む時は、自分にもお酒が入っている方が楽しいですよね」

 首藤さんの語りには、「酒と本がたまらなく好き!」という思いが染み込んでいる。それがこちらにも浸透し、酔いながら本を読むひとときの深みに、無性に溺れてみたくなった。

 一人で飲みながら本を読むという行為は極めて個人的な楽しみだ。だが、首藤さんは、この二つは人と人とをつなぐツールでもあるとも考えている。この場所には、やはり本好きが多く集まる。そして客同士が本の話題をきっかけに親しくなることも多いという。

 ある本の筆者がカウンターの片隅で飲んでいる時、別の客がその人の本を偶然購入するということがあった。そこで、首藤さんは著者に断った上で、その客に著者のことを紹介したところ、二人とも大喜び。結局一緒に飲むことになったという。それは首藤さんにとってもうれしい出来事だった。

 「酒と本ってこんなに相性がいい。だから、この楽しみを普及していきたいんです」

(次回は3月3日に配信予定です)

おすすめの3冊

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『舌鼓ところどころ』(吉田健一)
英文学評論家、作家の吉田健一があちこちと食べ歩いた時の様子を丹念に描いたエッセイ。「酒と食の嗜み方に大きな影響を受けました! 読みにくいけど中毒性のある文章。ここまで真摯に飲み歩く様子を酔っ払いながら読むのが楽しい(笑)」

『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』(村上春樹)
村上春樹がウイスキーの故郷を訪ねた旅をつづった紀行文。「村上春樹は大好きな作家なのですが、私がウイスキーを飲むようになって、ますます“なんて素敵な本なんだ!”と思うようになりました。いつかスコットランドに行こうと決めることになった思い入れのある一冊です」

『きらきらひかる』(江國香織)
アルコール依存症気味の妻と同性愛者の夫、夫の恋人という3人の奇妙な三角関係を描いた物語。「元々本好きだった私が、この本でますます本が好きになったという思い出の一冊。主人公がの女性がウイスキーをいっぱい飲み、不器用ながらも自分に正直に、自由な生き方をしているのが印象的です」

(写真 山本倫子)

    ◇

古本バル 月よみ堂
東京都杉並区西荻南2-6-4

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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