花のない花屋

10年目の結婚記念日、まさかの乳がん発覚

  

〈依頼人プロフィール〉
澤田真美さん(仮名) 41歳 女性
東京都在住
主婦

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今から3年ほど前のこと。テレビを見ているときに、ふと胸のしこりが気になりました。「あれ?」と思い病院に行って調べてみると、まさかの乳がんでした。皮肉なことに、ちょうど結婚10年目の記念日でした。あまりに突然のことで事態がのみ込めず、その日から心休まることのない日々が始まりました。

手術、抗がん剤治療を経てホッとしたのもつかの間、翌年の夏に再びしこりを見つけ、再発が発覚。どん底へ突き落とされた思いでした。再手術をしたものの、後になって「取り切れていない」と言われ、再び手術を受けることに。さらにその後、子宮頸(けい)がんの検診にもひっかかり、「どこまで悪いことが続くのだろう」とすっかり落ち込んでしまいました。

そんなときに、私を支えてくれたのが夫と子どもたちでした。次から次へと悪いことが起こるたび、夫は「一つ一つ起きていることには意味があるはず。悪いことだけじゃないよ」と、ポジティブな方向へ私を導いてくれました。確かに、今になって思えばその通りです。一つ一つがきっかけとなり、次の行動につながっていきました。夫は自分だってつらいはずなのに、決して落ち込む姿は私に見せず、いつも元気をくれました。

9歳の娘は、体の自由がきかない私の代わりに朝ご飯を作ったり、家事をたくさんしてくれました。6歳の息子は、抱っこや添い寝ができなくなった私をさみしそうに見ながらも、毎日楽しそうに笑って、家の中を明るくしてくれました。

そんな家族に支えられ、昨年末にようやく治療が一段落しました。ここ数年、私は自分のことで精いっぱいで、妻としても母としても十分なことができず、家族には申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいです。

3年前に10年目の結婚記念日をお祝いできなかった夫に、そして小さな心で不安を感じながらも、いつも笑顔をくれた子どもたちに、感謝の花束を贈りたいです。これからも家族4人で過ごせる時間がずっと続きますように……。そんな祈りを込めて、明るい未来を感じさせるようなお花をお願いできないでしょうか。ちなみに夫や娘は天体や星が好きで、息子は鉱物などが好きです。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

全体のイメージは、キラキラとした生命力あふれる花束です。最初はイエローのアレンジも考えましたが、もっと生命力を全面に出したいと思い、グリーンでまとめることにしました。

アレンジ全体の色は落ちついていますが、形に注目してみてください。実は、ガーベラやクリスマスローズ、レースフラワー、ナデシコなどは星に見立てています。花の形がどこか星に見えませんか?

中心に挿した背の高い花はフリージアの原種ですが、これも小さな花の部分は星形なんです。ご主人や娘さんが天体好きとのことで、星空をイメージしました。中心に挿したアロエは息子さんの好きな“鉱物”を意識しています。

これからもすてきな家族の時間が末永く続きますように。花の“星空”に願いを込めて。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

10年目の結婚記念日、まさかの乳がん発覚

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


冬山に消えた弟 共に悼んでくれた方へ

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