このパンがすごい!

世界的パン職人直伝、若き女性シェフが焼く男前ブレッド/GARDEN HOUSE CRAFTS

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ショーケースの中のカントリーブレッド

■GARDEN HOUSE CRAFTS(東京)

 男前なパンである。GARDEN HOUSE CRAFTSのカントリーブレッド(=カンパーニュ)。黒光りした皮は甘く、香ばしくじゃがいものような滋味深い風味も滲(にじ)んでくる。中身は、あまりのみずみずしさゆえに、 噛むとぴちぴち鳴り、麦のジュースがほとばしる。そのフレーバーには、梅みたいなフルーティな酸味とキャラメルのような甘さと森のすがすがしさが同居しているのだ。

 ごつごつとしたパンの表情は高温でがつんと焼きこまれたことを示し、いかつい男性によって焼かれたかのように想像してしまう。意外にも、このパンの作り手はまったく正反対に、うら若き女性シェフ、村口絵里さんなのだ。

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村口絵里シェフ

 彼女の師のひとりは、世界的に有名なサンフランシスコのパン職人、タルティーン・ベーカリーのチャド・ロバートソン。彼のパンは私の憧れでもあった。著書『タルティーン・ブレッド』(クロニクルブックス・ジャパン刊)の表紙になっているカントリーブレッド(カンパーニュ)の豪快なヴィジュアルをひと目見て、私はその魅力に引き込まれてしまった。

 作り方も、日本人の感性からは想像もつかないほどイマジナティブ。youtubeでチャド・ロバートソンがカントリーブレッドを作るところを見て、私は度肝を抜かれた。丸いパンは「丸め」(生地を回転させて丸く成形する)で作るのが一般的なのに、彼は生地を折り畳む。それでいて、きちんとふくらんだ丸いパンができるのは驚異的で、まるで魔法かなにかに見えた。

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カントリーブレッド

 あるとき、GARDEN HOUSE CRAFTSの窓から、村口シェフがカントリーブレッドを成形するところが見えていた。私は感動したものだ。彼女もまたチャドと同じように、折り畳んでカントリーブレッドを作る。手の動きはあまりに素早く、素人の私にはなにが行われているか捉えることができず、目の前で見ていてもやはり魔法であることに変わりはなかった。

 なぜそんな成形の仕方をするのか。彼女の答えはこういうものだ。「水分のたくさん入った生地を、自家培養発酵種(天然酵母)で持ち上げるために、チャドさんが考えた方法です」と。

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まるぱん

 テクスチャーもさることながら、すばらしいのは、酸味や旨味に満ちた種の風味。さまざまなフレーバーを含んでいて、いろいろな食材と思いもかけぬマッチングを引き起こす。

 たとえば、カントリーブレッドにオリーブを入れたオリーブカンパーニュ。発酵種に由来する檜(ひのき)のようなすがすがしさと、オリーブ由来のライムのようなアロマがランデヴーする。やわらかな中身が舌に触れた瞬間、甘さ、穀物感、酸味、旨味が滲み出す。そのどれもが、しっとりした生地の効果によって、やさしく、軽やかである。

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クロワッサン

言うまでもないが、村口さんはタルティーン・ベーカリーの単なるフォロワーではない。学び取った方法を日本の気候・風土に落としこんで、国産小麦をはじめとする日本の食材のよさを引き出す手腕は最先端。カネルブレッドの回で述べた「小麦新世代」を代表するベイカーのひとりだ。

 クロワッサンを食べたときも、衝撃を受けた。繊細ではかない、というクロワッサンのイメージを覆す。生地に引きがあり、がつんとくる香ばしさがあり、ぷるんとした噛みごたえがあり、旨味があり、と質感や素材感を重視。後味で、バターの甘さはもちろん、そこに拮抗する小麦の香ばしさが濃厚に漂う。これも、かつてなかったほど男前なクロワッサンなのだ。

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ルーベンサンドイッチ。自家製コンビーフをはさんだホットサンド

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店の外観

■GARDEN HOUSE CRAFTS
東京都渋谷区代官山町13-1 LOG ROAD DAIKANYAMA 5号棟
03-6452-5200
8:00~20:00(不定休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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