book cafe

<36>ゆるっと波瀾万丈 中華街のひみつスポット

ブックカフェ36

 いきなりですが、クイズです。
 「横浜中華街に本屋は、ある? ない?」

 正解は「ある」。ただし、正確にはブックカフェ。複合施設「横濱バザール」3階の一角にある「BOOKS&CAFE関帝堂書店」がその店だ。オーナーの島田哲也さん(40)は、大の歴史好き。中でも雄大な中国の歴史や文化に引き込まれたという。

 「漢字など、日本のいたるところに中国がルーツのものがたくさんあり、面白いと思ったんです」

 約10年前、中国文化が大好きな会社員に過ぎなかった島田さんだが、語学学習などを通じて知り合った中国人に、「中華街でテナントを募集している場所があるから、一緒に店をやらないか」と持ちかけられた。思いもよらない提案だった。

 いろいろ考えてみて、島田さんは横浜中華街に書店がないことに気づいた。

 「雑貨店などの一部に本や雑誌を売っているコーナーはあるけど、書店はなかったんです。それに、中国語学習者の目線で欲しい本を集めた店にすれば、需要があるんじゃないかと」

 2005年12月、中国語の雑誌や書籍をそろえた「関帝堂書店」としてスタートを切る予定だった。しかし、中国で買い付けた書籍の大半を税関で止められるというトラブルに見舞われる。

 「内容に問題があったわけではなかったのですが……。しばらく交渉を続けましたが、大半は諦めるしかありませんでした」

 本が少なくて棚の見栄えがよくなかったので、島田さんの蔵書を「泣く泣く」並べ、古書店で中国関連の書籍を集めるなどして、なんとか体裁を整えた。ところが、商売を持ちかけた中国人はさっさと手を引いてしまった。

「おいおい、と思いましたよ! 僕も一緒にやめることもできましたが、オープンして数カ月だし、もう少し頑張ることにしたんです」

 現在のブックカフェにしたのは、2006年のこと。隣りあった中国茶の店がオーナーの都合で閉店することになり、島田さんが隣の空間も借りることにしたのだ。

 「ブックカフェにしたら面白いと思い、書店スペースはそのまま、カフェを併設しました。その後、リーマン・ショックなどで、雑貨や本の販売に伸び悩んだこともあり、2009年ごろ、書店だったスペースにも机と椅子を置き、本棚に囲まれたカフェスペースに変えました」

 本の閲覧と購入はカフェ利用者のみ。販売している本のみに値札を貼り、島田さんが手放したくない蔵書も非売品として惜しみなく並べられるようにした。本棚はさらに充実し、今では約2000冊に。口コミで中国語圏の映画や音楽好き、中国語を勉強している人が集まるようになった。

 店は昨年12月に10周年を迎えた。
 知り合いの中国人に経営を持ちかけられ、開店早々の大トラブル。その後、ブックカフェへと業態を変えるなど、流転の10年だった。

 「ずっと一人でやってきて、流されるがままに10年経ちました。でも、ようやくスタート地点に立ったような感じがします」

 横浜中華街の片隅でひっそりと営業する、“横浜中華街で唯一のブックカフェ”。島田さんが愛する中国史のように、これからも波瀾万丈(はらんばんじょう)の歴史を刻んでいくのだろう。

おすすめの3冊

ブックカフェ36

『李陵・山月記』(中島敦)
教科書にも収録される、言わずと知れた名作短編集。「李陵や山月記はよく知られていますが、実は他の短編こそが面白いんです!」

『日語 日語流行口語極短句888個』(中国宇般出版社)
中国で出版された日本語学習書。「日常生活で使う日本語の例文集なのですが、『こんな言い方しないから!』とツッコミどころ満載の一冊です(笑)」

『雪山飛狐』(金庸)
中国ではまず知らない人はいないというほどの著名な作家の作品。「この人の小説は長編が多いのですが、これは1冊にまとまった作品です。任侠の世界でのチャンバラ活劇をミステリー仕立てにしたもので、とにかく面白い!」

(写真 山本倫子)

    ◇

BOOKS & CAFE 関帝堂書店
神奈川県横浜市中区山下町166 横濱バザール3階
http://kanteido.com/

(次回は3月18日に配信予定です)

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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