このパンがすごい!

シンプルだから、素材の複雑さが際立つ/リュミエール・ドゥ・ベー

このパンがすごい!

石臼と小麦のサンプル

■リュミエール・ドゥ・ベー(神奈川)

 ガラスの容器の中の小麦たち。フランス産オーガニック小麦、カナダ産スペルト小麦、ドイツ産オーガニックライ麦、国産有機栽培はるゆたか……。店先に飾られたそれらは、愚直に素材にこだわるリュミエール・ドゥ・ベーの象徴である。海外の稀少な麦、あるいは農家から取り寄せた玄麦(粒のままの麦)を石臼で挽き、風味の飛ばないうちにパンにする。おいしいパンはおいしい小麦から作られるのか? その問いに、私が自信を持ってYESと答えるのは、こういう店が存在しているからなのだ。

 パン・ドゥ・ミィという名の食パン。ぷるんぷるんして、ふにふにと歯にくっついてくる食感が愛おしい。舌触りはひんやりしてなめらか。それは水分がたっぷり入っていることを示していて、まるで奔流のように麦のジュースが流れ出てくる。すごく甘く、プライスカードに砂糖・油脂不使用と書かれていたことが、信じられない。甘さは酸味へ、あるいはかすかなほろ苦さへと官能的に移り変わる。

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パン・ドゥ・ミィ

 そもそも、口に近づけたときすでに、香りの一撃でやられていた。ローズマリーやタイムを思わせるすっとする香り。あるいは、高原のすがすがしさ。このシンプルなパンにあるはずのない匂いを嗅いで、夢を見るような気持ちになった。こんな風味を表現することがどうして可能なのか。無量井健太郎シェフは自家培養発酵種(いわゆる天然酵母)の使い手である。パン・ドゥ・ミィのさわやかな香りは、バジル由来の種から、並外れた甘さはりんごの種からやってくるのだ。

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バゲット・リュミエール

 バゲット・リュミエールでも、いきなり発酵種がフェロモンのように香る。とまどうほどのその衝撃は、皮の甘さと香ばしさですぐさまかき消され、癒される。食感は、フランス産小麦らしいばりばりぶり。溶ければ溶けるほど滲(にじ)みだす甘み、ぴりぴりする酸味、それと表裏一体の旨味をごくりと飲み込む。

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キャラメル・ショコラ

 この生地に甘い具材をはさんだのがキャラメルショコラ。小籠包から汁が垂れるように、自家製キャラメルソースが垂れ落ちる。ほろ苦い甘さ、香ばしさの領域において、示し合わせたようにマリアージュする、チョコとキャラメルとパンの皮。その向こう側に白い小麦の味わいも透けている。発酵種の香りと酸味も溶け合い、明滅する。

 リュミエール・ドゥ・ベーのパンはどれもシンプルである。にもかかわらず、こんなにも複雑というのは、逆説的ではないだろうか。それはなぜなのか。本来、自然なものはそれ自体で私たちの味覚をすり抜けるぐらいの風味にあふれている。いい材料は、そして職人のいい仕事は、そのことを教えてくれる。

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野菜のタルティーヌ

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無量井健太郎シェフと奥様

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外観。七里ケ浜の高級住宅地に店はある

■リュミエール・ドゥ・ベー
神奈川県鎌倉市七里ガ浜東3-1-30
0467-81-3672
11:00~19:00(日月休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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