ワインのおはなし

<16>焼き肉をタレで食べる時の「絶対これ!」は? ~シラーズ

ワイン16-1

南オーストラリア州、バロッサ・ヴァレー(Barossa Valley)の「Torbreck Woodcutter’s Shiraz(トルブレック・ウッドカッターズ・シラーズ)2014」

ワイン16-2

「オーストラリアワイン」っていったら、まずはシラーズを思い出してください

ワイン16-3

飲んだ後の「カーッ」と熱くなる感じを覚えて、自分の中にアルコール度数の基準を持っておきましょう

ワイン16-4

シラーズといえば、「ジャミー」であることが特徴

ワイン16-5

シラーちゃん(左)と、シラーズちゃん(イラスト・くぼあやこ/『おいしいワインの選び方』より)

ワイン16-6

バロッサ・ヴァレー。シラーズの首都ともいわれる

明日香 そろそろ桜の時期だけど、今年は早そうね!

リカ ほんと花見が待ち遠しいです。でもその前に、来週は職場の送別会ラッシュなんですよ〜。あろうことか、幹事になっちゃった。

明日香 あら、お店は決まった?

リカ がっつり焼肉です!

明日香 リカちゃんのまわり、肉食系多いわね〜(笑)。

リカ 類は友を呼ぶというか……。ところで、焼肉だといつもビールで始まり、マッコリやハイボールでだらだら、という路線なんですけど、今度のお店はワインもいろいろ置いてあるみたいで。せっかくだからワインを合わせてみようかと。

明日香 いいじゃない! もうね、焼肉なら「絶対これ!」っていう超おすすめワインがありますよ。

リカ まさにそれを知りたかったんです! なんでしょう、その肉食系ワインは?

明日香 ずばり、シラーズ(Shiraz)です。お塩のときはまた違うんだけど、オーソドックスにタレで食べるとき、最高に合います。聞いたことある?

リカ 知らーず……。

明日香 シラーズを知らずして焼肉食べるべからず(笑)!

シラーとシラーズ、基本的には同じ品種なの

リカ すみません(笑)!でも、確か前回飲んだのがシラー(Syrah)でしたよね? 名前がほとんど同じですけど、シラーとシラーズって違うんですか?

明日香 フランス南部のローヌ地方で作られているのがシラー、オーストラリアで作られているものがシラーズと呼ばれています。一応シラーズはシラーの亜種と言われているけど、基本的には同じ品種なの。リカちゃん、シラーの特徴って覚えてる?

リカ 酸、タンニン、スパイシー!

明日香 オッケー!

リカ (ホッ……)

明日香 で、シラーズの特徴は、酸、タンニン、スパイシーに加えて、甘みがあることなの。甘ったるいというわけじゃないけど、甘みのニュアンスが加わっているのね。よく「ジャミー」という言葉で表現するんだけど……。

リカ ジャミー?

明日香 うん、香りがジャムみたいなんです。ブドウを煮詰めてブドウジャムを作ったときのような香りというか。

リカ へえー! 確かに、ジャムっぽい!!

明日香 リカちゃん、せっかくだからオーストラリアのことをちょっとお話するね。オーストラリアって世界で一番大きい島国で、ヨーロッパの国土全体の約7割の面積があるんだけど……。

リカ え、そんなに大っきいんでしたっけ?

明日香 そうなの。でも、ワインはオーストラリアの南半分でしか造られてないの。北部は赤道が近くて暑すぎるんですね。ワインの生産量は世界のトップ10に入っているんだけど、大陸の大部分は暑すぎたり水が少なすぎたりして、ブドウの栽培に適さないんです。だから産地も一カ所にかたまっていなくて、ポツポツ点在しています。そんな条件の中で、最新の技術を駆使してワインを造っているんですね。

リカ あ、そっか!南半球のオーストラリアでは、北に行くほど暑くて、南に行くほど涼しいんですね。

明日香 そう。そしてやっぱりワイン用のブドウっていうのは、ある程度涼しくないとダメなんです。「ワインにとって酸が命」っていう言葉聞いたことある? ワインはやっぱり酸がないと、味がだらっとしてしまうから、ある程度冷涼な方がいいんです。

リカ そうなんですか!

日本にはどこの国のワインが一番入ってきていると思う?

明日香 ちなみに、「オーストラリアワイン」っていったら、まずはシラーズを思い出してください。オーストラリアにあるブドウの木は、4本に1本がシラーズだと言われています。2番目に多いのはシャルドネね。

リカ 最近、スーパーでもオーストラリア産ワインってよく見かけますよね。

明日香 オーストラリアでは、全ワイン販売量の6割もが輸出されているんですよ。

リカ へえ?! どこに輸出することが多いんですか? 日本?

明日香 ううん、やっぱりアメリカとイギリスが圧倒的ですね。でも、近年中国への輸出量がぐんぐん伸びてきています。ちなみに日本にはどこの国のワインが一番入ってきていると思う?

リカ フランス? じゃなければ、イタリア?

明日香 そう、これまでは1位がフランスで、2位がイタリアでした。でもそれが去年変わったんです。

リカ じゃあ、とうとうスペインの台頭?

明日香 いいえ。

リカ えー、なんだろう? アメリカ? オーストラリア?

明日香 正解は、チリ!

リカ あー、チリの存在忘れてた。

明日香 2015年度はチリワインが輸入量1位になったんです。13年までは1位フランス、2位イタリアが王道だったんだけど、13年にチリがイタリアを抜き、とうとう去年フランスを抜いちゃった。本当にいま、日本ではチリワインがブームなんですね。

リカ チリも積もれば、ですねえ。ちなみにオーストラリアは何位ですか?

明日香 毎年だいたい6位をキープしていて、今年も同じですね。日本に入ってくるオーストラリアワインは、やっぱりシラーズとシャルドネが多いです

リカ ところで、シラーとシラーズってなんで呼び方を変えてるんですか?

明日香 法律があるわけじゃないので一概には言えないんだけど、オーストラリアの造り手さんの中でも、「シラー」と表記する人もいるんですよ。そういうワインは、たいていフランスのシラーっぽい味わいです。つまり、濃縮感をあまり出さずに、酸とタンニンに特化してエレガントに仕上げています。

リカ じゃあ、目指す味によって自由に表記を変えていいんですね。

明日香 ええ、つまり「シノニム(別名)」なんです。ワインの品種は、場所によって呼び方が変わるものがあるんですが、シラーのシノニムが、シラーズ。だから、シラーと表記しても間違いじゃありません。

リカ でも、シラーと書くとフランス南部、ローヌのシラーを想起させるから、そういう味わいの場合はシラーと書くんですね。

明日香 そう。シラーズと書くと、「オーストラリアらしい、濃縮感のあるジャミーなワインなんだな」とみんな思います。

リカ そういえば、明日香先生の本、『おいしいワインの選び方』には、「シラーちゃん」と「シラーズちゃん」のイラストがありましたね。シラーちゃんは輪郭がキリッとした都会的な女性で、シラーズちゃんは、どっしりとした懐の深い感じの女性で……。あのイラストを見ると一目で違いがわかります。

明日香 でしょ! じゃあ、シラーズちゃんが本当に焼肉に合うかどうか、ちょっと飲んでみましょうか?

リカ 待ってました!

オーストラリアのシラーズには○○○○のニュアンスが!

明日香 今日ここにあるのは、南オーストラリア州、バロッサ・ヴァレー(Barossa Valley)という産地の「Torbreck Woodcutter’s Shiraz(トルブレック・ウッドカッターズ・シラーズ)2014」です。はい、どうぞ。

リカ わぁ、確かにジャムの香り!!!

明日香 でしょ? そしていかにも焼肉のタレの甘さと合いそうじゃない?

リカ はい、焼肉食べたくなってきました……。シラーはスパイシーさが全面に出ていましたが、シラーズはそれよりも甘みが勝っている感じですね。

明日香 そう。ブラックベリーやブラックチェリー、カシスなどを煮詰めた感じです。

リカ これで同じ品種なんですねえ。味が全然違う!

明日香 あと、スーッとする感じもあるでしょ。これはシラーもシラーズにも共通の特徴ですね。このスーッとした中に、シラーズは甘さの香りがあるから、黒胡椒というよりシナモンっぽいニュアンスになるんです。

リカ なるほど。

明日香 じゃあ、今度はもう一段階、深く香りをかいでみてください。

リカ はい。(くんくんくん)

明日香 ユーカリの香りがしない?

リカ えっ? ユーカリ??? コアラの木ですか?

明日香 オーストラリアってユーカリで有名ですが、ブドウ畑の近くにもたくさんあるんです。だから、オーストラリアのシラーズにはユーカリのニュアンスがあるってよく言われるんです。ここにユーカリの葉っぱがあるんだけど、かいでみる?

リカ はい! わあ、スーッとする。(ワインと葉を交互にかいで)あれ、確かに似ているかも。

明日香 ね? このスパイシーさと甘さの両方があるから、焼き肉のタレにもキムチの辛さにも耐え得るんです。どっしりとした重厚感ですべてを包み込んでくれるというか。

リカ んんー、おいしい! これバッチリですね。焼肉食べたい。

明日香 じゃあ、今度はごくんと飲んで、喉でアルコール度数を感じてみてください。

リカ (ごくん)んんー? アルコールをあまり感じません。普通より弱めですか? 

明日香 いえいえ!強めなんです。前回のシラーは13%だったけど、こっちは14.5%。

リカ ええー? 大丈夫かな、私? 喉が壊れてる?

明日香 飲み過ぎ(笑)?

リカ あ、でも今少し「カーッ」ときたような……。

明日香 そう、飲んだ瞬間はわからないけど、飲み込んだあとに徐々にアルコールは上がってくるの。その「カーッ」と熱くなってきた感じでアルコール度数がわかります。

リカ あ、飲んだ瞬間じゃないんですね。よかった、喉のセンサーが壊れているのかと思った……。

1843年に植樹された木が、まだワインに使われている!

明日香 ちなみにオーストラリアの原産地呼称制度はG.I.(Geographical Indications )と言います。ヨーロッパとは違って、エリアを決めているだけです。特定の産地を名乗るには、85%以上その産地のブドウを使っていなきゃいけませんが、栽培品種や製造方法などの規定はありません。

リカ このワインは、G.I.バロッサ・ヴァレーということですね。

明日香 ええ。 “シラーズの首都”と言われる、シラーズで有名な産地です。

リカ オーストラリアではいつ頃からワイン造りをしているんですか?

明日香 初めて植樹されたのが1788年で、まだ220年あまりしか歴史がありません。でも南オーストラリア州には、世界で一番古いブドウの木が現存しているんですよ。いま、実際にワインに使われているブドウの木で一番古いのが1843年に植樹された木です。

リカ うわあ、170歳以上の木だ! なんでそんな古い木がオーストラリアにあるんですか?

明日香 19世紀に世界中で猛威を振るったブドウの木の害虫に、“フィロキセラ”というアブラムシの一種がいて、その虫がつくとブドウの木が枯れてしまいます。当時、ヨーロッパ中のブドウの木がそれで枯れてしまって、フィロキセラに耐性のある台木に接ぎ木して、新しくブドウの木を育てることで解決しました。実はオーストラリア大陸の中で、南オーストラリア州はフィロキセラの害が一度もなかったんです。

リカ 気候的に病気が蔓延しにくかったとか?

明日香 というより、他の州で病害があったときに、南オーストラリアはすぐに対応したから、と言われています。

リカ だから南オーストラリアだけに残っている木があるんですねえ。

明日香 だいたいワインの古木って40年以上の木のことを呼ぶんだけど……。

リカ 170年なんていったらお化けですね!

明日香 そう、4倍! すごいですよね。根っ子は地中15メートルくらいまであるという話です。

リカ 15メートル!!何を吸ってるんでしょうね?

明日香 地中のありとあらゆる養分を吸ってるんでしょうねえ。

オーストラリアに「スクリューキャップ」が多い理由

リカ そうだ、最後に一つ質問が。このワインもそうですが、オーストラリアのワインってスクリューキャップが多いですよね?

明日香 いいポイント!そう、ニューワールドのワインにはスクリューキャップが増えてきていますが、オーストラリアもすごく多いです。

リカ スクリューキャップって、安っぽい=美味しくないっていうイメージがあるんですけど、そういうわけではないんですね?

明日香 もちろん。逆に利点もいろいろあります。たとえば、コルク臭が原因による品質の劣化、つまりブショネ(bouchonné)がなかったり、抜栓がしやすかったり……。あと、開けるときにコルクの屑が入らないという利点もあります。そういう理由から、スクリューキャップに変える生産者が増えています。お隣、ニュージーランドのワインなんて9割がスクリューキャップです。

リカ そうなんですか! 逆にコルクにすることでいいことってあるんですか?

明日香 一番のメリットは雰囲気かも!? やっぱりコルクをスムーズに抜く姿はカッコイイですし、ワインを飲む上で大事な演出かなって思います。以前はコルクだとワインが空気に多少触れるから、酸化熟成していい味わいになる、だから長期熟成型のワインにはスクリューキャップは向かないと言われていました。でも最近では異論もあり、スクリューキャップでも熟成に支障をきたさないとも言われています。

リカ じゃあ、ワインの状態だけで考えると、スクリューキャップのワインでもまったく問題ないんですね。

明日香 はい。それに、スクリューキャップは消費者にとってはやっぱりラクですよね。ソムリエナイフがいらないから、野外でも開けやすいしね。

リカ それ重要! おっと、もう遅くなっちゃった。今日はそろそろおいとましないと。明日香先生、今夜もありがとうございましたー。来週、焼肉とシラーズのマリアージュ試してきます。

明日香 いってらっしゃーい。リカちゃん、これから幹事のご用命増えそうね(笑)!

(文・宇佐美里圭)

    ◇
■本日のワイン
南オーストラリア州、バロッサ・ヴァレー(Barossa Valley)
Torbreck Woodcutter’s Shiraz(トルブレック・ウッドカッターズ・シラーズ)2014

>>楽天で見る
>>amazonで見る

    ◇

連載「ワインのおはなし」へ

連載「ワインとごはんの方程式」へ

PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 杉山明日香

    東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
    有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や、西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」、パリの和食店「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。
    著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)
    ■撮影協力:ゴブリン

<15>ひな祭り!ニッポンの洋食にぴったりなのは? ~シラー~

一覧へ戻る

特別対談<1>ワインも生物学も、言葉が与えられると見えてくるものがある

RECOMMENDおすすめの記事