朝日新聞ファッションニュース

〈ファッションニュース〉混乱打ち消すブランドの技 2016年秋冬パリ・コレクション

 2016年秋冬パリ・コレクションは今月初旬、混乱とも言える異例の雰囲気の中で開かれた。テロ警戒の厳重警備や人気ブランドのデザイナー交代劇の波紋、そしてニューヨークが先行した「ショー後にすぐ売る」流れへの困惑。だが、そんなざわつきを打ち消すように、基本的な形にリラックス感や静けさを漂わせた服が目立った。ブランドならではの技と創造性を生かした作風も光った。

リラックス感や静けさ さりげなく凝った服

 手早く売る服作りへの抵抗なのか、さりげなく凝っていて簡単には作れないような服が多かった中、特に若手が手がける老舗ブランドの切れ味の良さが際立った。
 ジョージア(グルジア)出身のデムナ・ヴァザリア(34)が初めて手掛けるバレンシアガ=[1]。トレンチコートなどの見慣れた形を、独自の裁断法で肩を抜いても着られるように仕立てた。創始者から続く繭形シルエットなどの独特な量感と、古着風のストリート感覚が絶妙にマッチ。ヴァザリアは「ブランドの美の歴史と、私が持ち込める若さと自由さを融合したかった」と話した。
 3年前に1984年生まれのデザイナーに代わったロエベ=[2]。ブランド伝統の革やジャージー使いに、猫形のネックレスや輪ゴムを編んだスカートなど、ユーモアと現代アート的な要素をさっくり混ぜながら若々しい気品が漂う。猫やアートは「成熟し洗練された現代女性に不可欠なものだから」という。
 基本アイテムに相反する要素を組み合わせたブランドはほかにも多かった。
 メゾン・マルジェラ=[3]は、トレンチコートに手編み風セーターの袖を組みあわせた。そんなエキセントリックな作風の中からパリの優雅さが匂い立つのは、オートクチュールも長く手掛けたデザイナー、ジョン・ガリアーノの仕事だからだ。
 ドリス・ヴァン・ノッテン=[4]は、1920年代調の豪華さときまじめなスクール調を合体させた。シャネル=[5]は赤やピンクなど明るい色のツイードスーツに、デニムやじゃらじゃらのネックレスなどを楽しげに盛り込んだ。
 ルイ・ヴィトン=[6]もスポーツウェアとスカーフ柄などを異種混合させた。デザイナーは「今の女性たちがやっている組み合わせを、自分風にやってみただけ」と笑った。
 社会情勢への反骨心の表れか、パンクの味付けも見られた。抜きんでたのは「18世紀のパンク」をテーマにしたコムデギャルソン=[7]だ。10種類ものゴブラン織りの花柄のハーネス(引き具)を組み合わせた、よろいのようなドレスは、華やかでかつ勇壮。これほど踏み込み、作り込んだ造形を見せるブランドは他にはない。デザインした川久保玲は「18世紀は産業革命などで何もかも新しくなった時代。そのパワーがいま欲しいと感じて」と語った。
 「ショー後にすぐ売る」傾向についての話題は、モードの本場パリでももちきりだった。ただ、製品の企画から販売、広告業界やメディアも巻き込む大きな構造変革が必要なため、ミラノと同様に懐疑的な見方が多かった。
 サンローランやバレンシアガなどを傘下に持つケリング・グループの会長は、「ラグジュアリー産業には、そぐわない流れ。夢や欲望を否定するものになりはしないか」とコメント。パリで展示会を開いた英国のポール・スミスは「成り行きには注目しているが、最近は何事も早さを求め過ぎる気がする」との見方だ。
 老舗のクリスチャン・ディオールやランバンは、退任した実力派デザイナーの不在を印象づけた。スピード化が進み、創造性とその製作過程の関係が揺らぐなかで、皮肉にも優れたデザイナーの存在が重要なことが浮き彫りになったシーズンでもあった。

若手「見える物への疑わしさを表現」

 老舗ブランド以外でも、独立系や若手の活躍が目を引いた。
 オランダ出身のイリス・ヴァン・エルペン=[8]は、熱可塑(かそ)性ポリウレタンなど特殊素材を使って、不思議な質感と立体感を出した。モデルが動くと、光を屈折させる膜を通して2重に見えたり、かすんだり。5千個の部品をつなぐなどの手仕事とハイテクが混ざる。現実と仮想、覚醒と夢。現代人が抱えるジレンマを痛烈に感じさせる。デザイナーは「目に見える物への疑わしさを表したかった」。
 日本勢も健闘した。サカイは、透ける布にワッペンやごついベルトを組み合わせた機能的かつフェミニンなスタイル。ワインや辛子色など色彩感覚もさえた。
 宮前義之によるイッセイミヤケは、創始者三宅一生から伝わるプリーツの技法を発展させた楽しげな服をそろえた。熱を加えると立体的なひだや柄が記憶される手法など、伝統を受け継ぎ進化させようとする意アンダーカバー=[9]のテーマは「パーフェクト・デイ(完璧な日)」。もこもこのパジャマスーツなどのリラックススタイルに、かわいらしい毒を盛って作り込んだ。モデルには高齢の女性も。デザイナーの高橋盾は「平和で、家族や友人と一緒。誰もがゆったりとしてストレスがない“完璧な日”になるといいなと思って」と語った。
 (編集委員・高橋牧子)

〈ファッションニュース〉雑貨とは何か?いとおしさあふれる展覧会

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