花のない花屋

大学生活を支えてくれた夫に 記憶に残る花を

  

〈依頼人プロフィール〉
石崎陽子さん 47歳 女性
東京都在住
派遣社員

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高校を卒業し、そのまま地元の群馬で就職した私は、大学生活を楽しんでいる友人たちがうらやましくてなりませんでした。ちょうど日本はバブル期。彼らは華やかな都会生活を謳歌(おうか)している一方で、経理課に配属された私は伝票整理や銀行回りに追われる毎日。帰省した友だちの口から語られる、おそらく大学の授業で覚えたのであろう難しげな言葉が、彼らと私を隔てる川のように横たわり、自分の境遇がことさら惨めに感じられたものです。

時を経て、25歳のとき同じ会社の男性と結婚しました。それから7年後、夫に東京勤務の辞令が下り、夫婦ふたりで上京することに。子どももおらず、慣れない土地でひとり悶々(もんもん)としていると、ある日夫に「せっかく東京にいるのだから、大学で勉強してみたら」と言われました。夫のその言葉に若い頃の思いがよみがえり、「そうだ、今を逃したらこんなチャンスは巡ってこないかも」と、翌日には願書を取り寄せ、翌春に都内の私立大学文学部の夜学生になりました。

入学金、授業料、教科書代に定期代。卒業までの4年間にかかった費用はノートに全部しるしておきました。計算すると、なかなかのクラスの国産車が買える金額です。「これ、働いて返すね」と言ったところ、夫は「人間は甘えられるときは、甘えた方がいいんだよ」とポツリ。

卒業してから10年以上経ちますが、お金は返さないままです。大きなお金を出させたという「痛み」を感じながらの10年余りでした。ただ、その痛みは夫への感謝と、無償の愛情をもらえたことのしるしとして生涯忘れません。

そんな夫への感謝を込めて東さんのお花をプレゼントしたいです。彼は49歳の会社員。クレイジーケンバンドのファンで、面白いことが大好きです。体は小さいけれど、心の大きい彼に似合うような、太陽のような明るい花束をお願いします。珍しい植物やビビッドな色の花などで、インパクトのあるアレンジにしてもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

とてもすてきなご夫婦ですね。太陽のような花束を、とのことだったのでカラフルなアレンジをまず考えましたが、もっとインパクトを出したいと思い、ネオレゲリアを20~30株挿してみました。

ネオレゲリアの中には、花つきのエアープランツのチランジアやエクメア、カーネーション、マム、ガーベラ、チューリップなどカラフルな花がぎっしりと詰まっています。硬いグリーンとオレンジの花弁の花は新種のバラで、フラッシュアイというものです。5本ほど入っています。

男性への花束なので、繊細な花をきれいにみせるよりも、「うわあ、すごいのが届いた!」と記憶に残るようなアレンジを目指しました。懐の深い、太陽のようなご主人へドカン!と贈ります。反応、いかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

大学生活を支えてくれた夫に 記憶に残る花を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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