花のない花屋

いつのまにか疎遠になってしまった、あの人へ

  

〈依頼人プロフィール〉
水野えみさん 33歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

あの男性とは仕事がきっかけで出会いました。私は建設会社で働いているのですが、彼の会社は工事の発注先。最初は仕事の打ち合わせで会うだけでしたが、あるとき、仕事上のトラブルがあったときに私を助けてくれたことがきっかけで、急速に距離が近くなりました。

お礼に食事に誘ったところ、年も近かったからかとても気が合い、すぐに週末ごとに食事に行く間柄になったのです。お付き合いをしていたわけじゃありませんが、会うたびにお互いの子どもの頃の話、趣味、仕事のことなどいろいろなおしゃべりをして楽しい時間を過ごしました。

パタッと疎遠になってしまったのは今から2年ほど前のことです。私が彼の会社に引き抜かれるような話が出てから、関係がこじれてしまいました。いくら仲が良くても、仕事は仕事、友達は友達。筋が通っていないように感じる出来事があり、彼に会いに行く足が遠のいてしまいました。

今にして思えば、きっとお互いが相手に寄りかかりすぎ、少し気遣いが欠けた瞬間があったのでしょう。そのときに安定した関係のほころびがやってきたような気がします。

その後、私は部署が変わり、仕事上でも彼と接点がなくなりました。でも狭い業界。風のうわさで彼の勤める会社はうまくいっていると聞いています。

あれからもう2年が経ちますが、私の中ではいまだにどこかしこりが残っています。もう一度彼に会える機会があれば、当時のことを謝りたいです。そこで、まずはそのきっかけとなるようなお花を作ってもらえないでしょうか。「私は元気でやっています。あのときはごめんなさい。あなたも気苦労が多いでしょうが、体に気を付けて頑張って。いつかまた、笑ってとりとめのない話をしましょうね」。そんな思いをこめて……。

彼は頼りがいのある男気あふれた人ですが、次男坊で甘えん坊な面もあります。でも、気を許した人でないと甘えられない、弱いところを見せられないとこぼしていました。そんな彼が、お花を目にしてふっとなごめるようなアレンジをお願いできないでしょうか。深いブルーやグリーンが好きなので、可憐(かれん)なお花というよりは、植物中心のグリーン系のアレンジの方がいいかもしれません。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回はご希望通りグリーンでまとめました。独身の男性でも長く楽しめるよう、水やりなどもあまり必要のない植物ばかりです。

使用したのは、アロエ、サボテン、多肉植物、ナデシコ、ラナンキュラス、ヒヤシンスの球根、グズマニアなど。ラッパのような形の葉が特徴のモルセラは、ポイントとして入れました。全体的に浅いグリーンになったので、引き締めるために濃い緑でツヤのあるアセボや、実のようなバーゼリアも加えています。サボテンや多肉植物は植え替えれば長く育てることもできます。

男性向けで、さらにつきあいが疎遠になってしまった人への花束には、今回のようなグリーン系がぴったりです。カラフルな花束だとかえって構えてしまう可能性もありますが、グリーンだとあまり抵抗がありません。おふたりの関係、うまく修復できますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

いつのまにか疎遠になってしまった、あの人へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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