book cafe

<38>鎌倉に引きつけられた人をつなぐ場に

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 JR鎌倉駅西口から御成通りを経て、長谷へとつながる由比ヶ浜通り。カフェや雑貨店などが連なり、雑誌の鎌倉特集でも人気スポットとなっている。

 「私が鎌倉に引っ越してきた9年前はシャッター通りで、たまにかわいいお店があったりするくらいでした」

 由比ヶ浜通りにある「HOUSE YUIGAHAMA」を運営するエンジョイワークス広報の角舞子さん(41)は、移住当時を振り返る。同店がオープンしたのは2年前の4月のこと。入り口にウッドデッキと小さな植え込みがある、ガラス張りのおしゃれなカフェだが、ストライプ柄の布張りの日よけの上に目を向けると、「魚文」という文字がうっすらと残っている。実はここ、元は魚屋だったのだ。

 湘南エリアの不動産仲介や建築プロデュースを行う同社はもともと海好きが高じて葉山に移住した社長の福田和則さん(41)が都内でスタート。2012年には、もっと鎌倉、逗子、葉山エリアでの暮らしや、家づくりの情報を発信したいと会社を鎌倉に移し、元魚屋の店舗を借り受けることになったのを機に、この店を作った。

 「不動産会社って目的がないと入りづらいもの。いろんな人が家や暮らしと接点が持てるカフェをずっとやりたかったんです」

 そう話すのは、同社社員で、4月に店長になったばかりの荻本英樹さん(41)。荻本さんもまた移住組の一人だ。

 海や山が近く、自然と歴史に恵まれた環境と、東京に約1時間で行けるという利便性から、鎌倉、逗子、葉山への移住を希望する人が急増している。地元物件を数多く扱う同社でも、その勢いを実感している。しかし、物件情報を提供することにとどまらず、快適な住空間を作るためのヒントを提示したり、人と人が結びつくきっかけを作りたいと考えた末、「HOUSE YUIGAHAMA」のオープンに至った。

 店に一歩足を踏み入れると、なぜか左手には洗面台がある。壁面はさまざまな色のペンキで彩られ、タイルが貼られている箇所もある。足元を見ると、風合いのある足場板や天然石のプレートなど、床にもさまざまな素材が用いられている。パッチワークのようなユニークなインテリアと思いきや、よく見るとそれぞれに値札と説明書きが付いており、この空間自体が、「建材のショールーム」となっている。

 右側の壁面には南青山のブックショップ・ユトレヒトがセレクトした、建築、インテリア、ガーデニング、ライフスタイルといった暮らしにまつわる本が約400冊あり、店内で自由に読むことができる。

 不動産・建築の会社が運営していることに全く気づかないまま、カフェとして利用する人もいれば、部屋の模様替えやリフォームのヒントを得るために訪れる人もいる。平日は鎌倉に暮らす人が集い、週末は観光客でいっぱいになる。自然光の差し込む開放的な空間は、そのどちらをもゆるやかに受け入れている。

 「鎌倉には新旧入り混じっての温かさがあるんです。移住組の私たちにとっても根を下ろせる安心感があって、街がどんどん活気付いていることを実感しています」(角さん)

 店がオープンしてから2年、ワークショップを開催したり、湘南エリアの物件活用法についてディスカッションしたりと、カフェはさまざまな活動の場になってきた。新たに店長になった荻本さんは、このエリアの良さを観光客や移住してきた人に伝えると同時に、地元の人との交流の拠点にしたいと考えている。

 ここで人と人が知り合い、新たな仕事や活動につながっていく。さまざまな人を惹きつける鎌倉には、新旧の混ざり合いを受け止め、熟成させていくだけの懐の広さがあるのだろう。

おすすめの3冊

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『9坪ハウス 小さな家で大きな暮らし』(萩原百合+9坪ハウスオーナーズ倶楽部)
3間×3間の正方形プランをベースにした9坪ハウス。小さな家で営まれる暮らしを通して、住まいに必要なものは何なのかを考えた一冊。「限られた空間をどう生かすか? という考え方や住まい方がすごく面白いんです。うちが提案する新築住宅スケルトンハウスのヒントにもなりました」

『オキーフの家』(写真:マイロン・ウッド、文:クリスティン・テイラー・バッテン、訳:江國香織)
20世紀のアメリカ美術を代表するジョージア・オキーフが後半生を過ごしたニューメキシコの2軒の家の写真集。「オキーフは家の手触りみたいなものを大切にしていて、モノクロ写真からそれがすごく伝わってくる魅力的な写真集です!」

『リートフェルト・シュレーダー邸―夫人が語るユトレヒトの小住宅』(編著:イダ・ファン ザイル、ベルタス ムルダー、訳:田井幹夫)
オランダ近代建築の代表作「リートフェルト・シュレーダー邸」をめぐる物語。「リートフェルト邸は、オランダのコンパクトで機能的な邸宅なのですが、有効的な間仕切りや光の入れ方がすごく参考になります」

(写真 山本倫子)

    ◇

HOUSE YUIGAHAMA
神奈川県鎌倉市由比ケ浜1-12-8

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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