花のない花屋

「韓国でアイドルになりたい」決断した娘へ

  

〈依頼人プロフィール〉
伊藤まゆみさん 49歳 女性
埼玉県在住
会社員

    ◇

高校からの推薦を受けて大学も決まり、あとは卒業を待つだけとなった今年の2月、娘から突然「大学に行かず、韓国でアイドルになりたい」と告げられました。

もともと韓国のアーティストが好きなのは知っていましたが、まさか彼女自身がアイドルになりたいと思っていたとは……。姉も含めて家族の誰一人知りませんでした。

聞けば、ずっと憧れはあったものの、現実的でないのも、親に反対されるのもわかりきっていたので、言い出せずにいたとのこと。でも、卒業や入学が近づくにつれ、「やっぱり諦めたくない」という気持ちが抑えきれなくなり、涙を浮かべながらの告白でした。すでにアルバイトでためたお金を全部つぎ込み、ボーカル、ダンス、韓国語の学校へも通い始めていました。

そのあまりに思い詰めた様子と情熱に、私はなぜか反対することができませんでした。本当は、親として反対すべきなのかもしれません。でも、このまま大学へ行って就職することがこの子の幸せなんだろうか?という思いで私は立ち止まってしまったのです。

大学を卒業しても、好きな仕事にはつけない時代です。夢があって、がむしゃらに前へ進もうとしている娘を前に、成功の可能性とかそんなことはもうどうでもいいのかな、という気持ちになりました。安全な方向へ導こうとする親が、必ずしも子どもを幸せにするとは限りません。

私自身は、親に「こっちがいいよ」と言われた道を歩いてきたところがあります。大学へ入ったものの「何になりたい」という夢もありませんでした。人生を50年も過ぎると、迷ったらラクな方へ進みがちになりますし、経験上、面倒を避けるようになります。そんな私には、あえて困難な方を選び、夢に突き進んでキラキラと輝いている娘の生き方にうらやましささえも感じました。

最終的には、大学へは一応進むことになりましたが、娘の胸のうちはすでに決まっているようです。間違いなくこれまでで一番大きな決断をした娘へ、東さんの花束で背中を押してあげたいです。彼女の情熱を原色の花で表現してもらえないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

娘さんの気持ち、とてもよくわかります。僕もそれくらいの年齢のときには、やりたいことがたくさんあって、夢にあふれていました。でも親には公務員になれと言われていたんです。結局、うまくいくかいかないかは、やらないとわかりません。うまくいく人は、もちろん0.1%もいないのかもしれませんが、それでもはじめる前にあれこれ考えてもしょうがない。

だから、娘さんには今しかできないことに全力投球してほしいです。そんな彼女を花で応援するなら、どんな感じにしたらいいだろう……?
そう考えて、情熱のまっ赤な花でまとめることにしました。

真ん中に据えたのは大輪のダリアです。このダリアのような大きな目標に向かって頑張れ!まっすぐ突き進め!という僕からのエールです。まわりに挿したのは、赤いカーネーションと、赤いスイートピー。情熱の赤一色です。

最後は自分が納得するかどうか。うまくいってもいかなくても、トライして自分が納得すれば、また次の道につながります。とはいえ、親御さんがチャンスをくれた大学くらいは卒業してもいいかもしれませんけど……。頑張って、大輪の花を咲かせてくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「韓国でアイドルになりたい」決断した娘へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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