花のない花屋

大手術乗り越え1歳、家族で息子の成長を感じたい

  

〈依頼人プロフィール〉
田村真理江さん 35歳 女性
大阪府在住
会社員

    ◇

まわりの友だちは後から結婚した人も含め、次々と子どもを授かるのに、私はなかなか授かれず、何度も涙を流すつらい時期がありました。そんな期間を経て、結婚から3年後にやっと妊娠したときは、本当に大きな喜びでした。出産の数カ月前も、出産した後のことを想像してワクワクしていました。

花屋で働く夫は、料理などまったくできない人だったのに、つわりで大変だったときは、私の代わりに料理をしてくれたり、むくんだ足をマッサージしてくれたり。そんな風に頑張っている夫を見て、「子どもを産んだら、病室で何か記念になるようなものをプレゼントしよう」とひそかに計画を立てていたものです。そんなことを考えるのも妊娠中の楽しみの一つでした。

しかし、現実はそう思い通りに進むものではありません。サプライズの準備をする間もなく、予定日より1カ月早く破水。入院の後に出産することになりました。

私が思い描いていた出産は、“幸せ”そのもの。でも、実際は小さく産まれて来た息子は、出産の幸せをかみしめる間もなく、他の病院の集中治療室(NICU)へ。

そして、そこで言われたのは、すぐに手術しなくてはいけない心疾患があるということでした。さらに悲劇は続き、手術直後に心停止が起こり、一命は取り留めたものの、脳への酸素供給が途切れたことから脳萎縮が疑われ、発達に不安を残しました。

私はただ楽しい家庭をつくりたくて、ささやかな幸せを願っただけなのに……。それさえも許されないのか、と絶望の毎日でした。

そんな日々は果てしなく長く感じましたが、大手術に耐え、4カ月も入院していた息子はこの3月で1歳になりました。数カ月の遅れはあるものの、できることも徐々に増え、頑張って成長してくれています。

そこでいま改めて、1年前にするはずだった夫への感謝と、親にならせてくれた喜び、生まれてきてくれた奇跡、それらすべてを表現する花を私たち家族に作ってもらえないでしょうか。息子が成長していく姿を感じられるような、希望を抱かせてくれる花束だとうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

僕も子どもを持つ親なので、読んでいて気持ちがよくわかりました。とにかく今回は、息子さんへ「強く生きて欲しい!」という願いを込めて、生命力を感じるアレンジを目指しました。

メインで使ったのはソウカクデンという観葉植物です。大きな球根のようなボディから蔓性(つるせい)の茎が伸びているのが特徴です。ふつうは鉢植えで育てるのですが、今回は切り花として使いました。この蔓をぐるぐると巻いた中に、白いカーネーションとグリーンのクリスマスローズ、ナデシコ、グリーンナップル、オーニソガラムなどをびっしりと敷き詰めました。ご両親の象徴として、ヒヤシンスの球根も2つ加えています。

リーフワークは、エピデントラムの葉です。全体をライトグリーンでまとめ、生命力を感じる仕上がりにしたかったので、肉厚なこの葉を選びました。

みずみずしい植物の力を感じてもらえたらうれしいです。

  

  

  

  
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

大手術乗り越え1歳、家族で息子の成長を感じたい

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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