花のない花屋

夭逝した弟の曲に気持ちを託して 両親へ

  

〈依頼人プロフィール〉
星野真理子さん 47歳 女性
インドネシア・ジャカルタ在住
元会社員

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今から14年前、9つ年下の弟が25歳の若さで急逝しました。なんの前触れもない、急性心不全でした。あのときのことはショックが大きすぎて細かい記憶がありません。

弟はミュージシャンで、ユニバーサルミュージックからメジャーデビューが決まっていました。なのに、まさに1枚目のアルバムのレコーディングの日に逝ってしまったのです。残された音源は残ったメンバーが制作を続行し、2002年にCDがリリースされました。

両親はあまりのショックにやせ衰え、見ていられないほどの状態でした。「一生懸命走ってきたのに、バトンを渡そうとしたら弟が消えてしまった……。何が起こったのかわからない」と父は言っていました。

弟は明るい性格で友達が多く、バンドでは作詞作曲、ボーカルを担当。すてきな詩や歌をたくさん残してくれました。亡くなってからは、バンドメンバーや友人、ファンの方々が入れ代わり立ち代わり実家を訪れ、お墓参りをしてくれています。弟がつないでくれた人々の存在が今もなお両親を支えてくれています。彼はここにはいないけれど、まるでずっと親孝行をしてくれているようです。

私は弟が亡くなった年に結婚し、子どもにも恵まれました。両親が心配だったので、一時期は家族で兵庫へ戻り、実家の近くで生活をしていました。でも、2010年からは夫の仕事の関係で海外生活が続いています。夏休みの帰省以外は孫に会わせてあげることもかないません。

そんな両親へ、親孝行ができないおわびと感謝を込めてお花を贈りたいです。来年1月が金婚式なので、金婚式のお祝いの気持ちも込めて……。

できれば、弟のバンド「初恋の嵐」にちなんだアレンジをお願いできないでしょうか。結婚式でも流した私のお気に入りの曲、「真夏の夜の事」を聴いて、イメージしてくださると光栄です。よろしくお願いいたします。

  

花束を作った東信さんのコメント

弟さんのバンド、「初恋の嵐」の曲を聴いて作りました。とてもいいバンドですね。せっかくメジャーデビューが決まったのに、そのレコーディングの日に亡くなってしまうなんて……。

今回はご両親へのお花ですが、弟さんへのオマージュをテーマにしました。さわやかさと、どこか尖ったところがあるようなバンドの雰囲気をグリーンと白で表しました。

使用したのはムギ、ねこじゃらしといったトゲトゲした形の植物や、ノーブルリリー、グリーンベル、エピデンドラムといった小花、ユーカリやヒカゲカズラといったグリーン系の植物です。トップにはアクセントとして3本のバイモユリを差して動きを出しました。

グリーン系なので、花持ちもいいはず。長く楽しんでくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

夭逝した弟の曲に気持ちを託して 両親へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


目の見えない姉へ 香りの花束を

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3人子育て中のワーママ わたしが元気でいるために

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