花のない花屋

膵臓がん乗り越え5年、この先も家族とともに

  

〈依頼人プロフィール〉
五十嵐久美子さん 39歳 女性
千葉県在住
主婦

    ◇

6年前のある日、いつも元気でオヤジギャグばかり飛ばしている父から、力のない声で電話がきました。「おれ、がんになっとるごた」。聞けば、膵臓(すいぞう)がんだと言います。

膵臓がんは治療の難しいがんのひとつで、当時、看護師として手術室で働いていた私は、ことの重大さに気づき、すぐに実家のある福岡へ帰りました。

母は毎晩泣いていたのか、もともと140センチの小柄な体が、さらに小さくなったように感じました。「お母さんがしっかりせんといかんけど、困ったねぇ。涙がよく出るったい」と言い、気丈に振る舞おうとしている姿がさらに痛々しく見えました。

同居している妹は口が達者で、よく父と喧嘩(けんか)していましたが、「もう、お父さんと喧嘩できんやんか」と言って、シクシクと泣いていました。

父の病は、5年生存率4%以下。口には出せないけれど、誰もが死を覚悟して生活をしていました。

幸い手術を受けることができて、つらい抗がん剤治療がスタートしたある日のこと。父が、「こんなにつらいけん、なんか目標立てな頑張れんばい」と言い出しました。

「そうや!お父さんが5年間生きとったら、みんなをハワイに連れてっちゃろう。お父さん、それまで頑張るばい!」

母も妹も私も父を応援しました。5年間生きていられないかもしれない、という不安を抱えて……。

それから毎年、手術をした日には新たに命をもらった日としてお祝いをしました。2年が過ぎると、妹と父は以前のように口喧嘩をしはじめ、当たり前の風景が少しずつ戻ってきました。

そして5年目の手術の日。

「おい、困ったなー。なんと5年だぞ! ハワイ、連れていかんとなあ」とうれしそうに父は言いました。聞けば、父は家族みんなでハワイへ行けるよう、すぐに仕事復帰して、貯金をしていたのだそうです。

5年前は、誰もが諦めかけていた命。でも、家族の支えで病を乗り越え、夢が実現できたのです。昨年、私と妹の子どもたちも連れて、総勢8人でハワイへ行くことができました。ハワイでは、父は何度も何度も「ありがとう」を口にしていました。

父が病気になり、改めて家族の絆の深さを感じました。そんな家族にありがとうの感謝を込めて花束を贈りたいです。次の5年に向けて、種やドライフラワーなど何かしら形が残るものをいれてもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

お父さんとのハワイ旅行は、ご家族みんなの一生の思い出でしょうね。今回はそんな大切な思い出のハワイをテーマにアレンジをしました。

使用したのはすべて南国の植物です。月桃、プロテア、フィアヤークラッカー、エクメア、ピンクッション、アーティチョーク……。南国の花はどれも個性的な色と形をしています。一つ一つの個性が強いので、数を絞りぎゅっと真ん中にまとめました。

リーフワークはドラセナの葉で、ハワイアンという種類です。ふだんより少し多めにリーフワークを入れ、個性の強い花たちを際立たせるようにしました。

ドライフラワーにすることもできるので、みなさんで長く楽しんでくださいね。次の5年も楽しく暮らせますように……!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

膵臓がん乗り越え5年、この先も家族とともに

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


3人子育て中のワーママ わたしが元気でいるために

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