花のない花屋

心はそばに、祈りをこめて 胃がんのママ友へ

  

〈依頼人プロフィール〉
星野さおりさん 35歳 女性
神奈川県在住
パートタイマー

    ◇

彼女と知り合ったのは、4年ほど前のこと。現在小学2年生の長男が幼稚園に入園したときで、子どもたち同士が同級生でした。同じマンションだったこともあり、よく一緒に遊んだり、ランチに行ったり……いわゆる仲のよい“ママ友”です。

いつも明るく、関西弁で話す彼女は若くてかわいらしいけれど、ゲームが大好き。地元ではあまりいい思い出がないと言っていて、こちらでできたママ友と遊んだり、女子トークで盛り上がるのがとても楽しいと話していました。

私も学生時代は友だちが少なくあまり楽しい思い出がなかったので、そんな彼女に親近感を抱き、よく一緒にお酒を飲んだり、家族ぐるみでバーベキューをしたり、親しくおつきあいをしていました。

ところが昨年の夏くらいから、彼女は「ご飯があまり食べられない」と言うようになり、11月には体調を崩して入院してしまいました。とても心配で、何度もメールをしたのですが返信はありませんでした。

3カ月ほど経って退院し、学校の授業参観で久しぶりに会ったときに、彼女から「末期の胃がんなの」と告げられました。転移して手術ができず、入院中は つらい抗がん剤治療をしていたとのこと。退院してからも在宅で点滴による抗がん剤治療を続けていて、食事は流動食だけだと言います。それでも彼女はいつもと変わらない笑顔で「大丈夫よ~」と言っていました。

30代半ばで大切な一人息子を残して逝かなければならない彼女の悔しさを思うと、本当に辛いです。これからどんどん大きくなっていく息子たちの成長を一緒に見守り、進学や就職の苦労を語り合い、独立したら温泉旅行にでも行って、楽しい時間を共に過ごすはずだったかけがえのない友人なのに……。

今は家族との時間の邪魔にならない程度に連絡を取り合いながら、体調がよいときにはうちに来てもらって、短い時間でも楽しくおしゃべりしています。

彼女は私の前ではいつも本当に明るく、「そう簡単に死にゃあしませんよ」と笑っています。でもきっと辛(つら)くて眠れない夜や、痛みに耐えきれないときもあるはずです。

彼女に安らぎと、生きることを諦めないでという祈りを込めて花を贈りたいです。ふだんは照れてなかなか言えないけれど、心はそばにいるよ、愛しているよ、という気持ちも一緒に伝えたいです。ピンクが好きなので、ピンクをベースにイエローやブルーなどやわらかい印象のパステルカラーでまとめてもらえないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

ピンク、イエロー、ブルーと色のご希望があったので、それらの色の花で全体をまとめました。使ったのは、ダリア、ベルテッセン、ガーベラ、ニゲラ、カーネーション、ミニバラ、ブルースター、ピンクスター、アスチルベなどです。やわらかいパステルカラーなので、見ているだけで優しい気持ちになります。

小花をたくさん使っていますが、それだけだと単調になってしまうので、ダリアやバラなどを間に挟み、アクセントにしました。この花を見て、少しでも穏やかな気分になってもらえたら……。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

心はそばに、祈りをこめて 胃がんのママ友へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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