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<43>定食は野菜たっぷり 陶芸好きカップルの手作りカフェ

<43>定食は野菜たっぷり 陶芸好きカップルの手作りカフェ

 お昼時はもちろんのこと、仕事帰りの遅めの時間でも野菜たっぷりの定食が食べられる。ちょっと飲みたい気分の時はお酒も頼める。休日にふらりと立ち寄って、コーヒーを飲みながら店内の本を読んで過ごせる――。

 「こんな店が家の近くにあったらいいのに!」

 神楽坂からも江戸川橋からも徒歩圏内の「NemaruCafe」はまさにそんな店だ。オーナーの堀越大輔さん(34)は、コピーライターとして独立して3年が過ぎ、仕事が軌道に乗った頃、カフェ運営に興味を持ち始めた。店長で妻の恭子さん(37)もまた、いつかはカフェをやってみたいという気持ちを胸に秘めていた。

 「のんびり過ごせて、ちょっとしたご飯も食べられる。自分が会社勤めだった時にそういう店が欲しかったので、働く人の癒やしになるような空間を作ってみたいと思ったんです」(大輔さん)

 そんな2人がつきあい始めたのは、食と器という共通の趣味があったから。一緒に食べ歩きや陶器市巡りをするようになり、やがて同居することに。カフェの話も自然とわきあがっていったという。

 物件を見つけてからの展開は速かった。極力お金をかけないようにするため、壁の漆喰塗りや、店内の本棚やカウンター、テーブル作りは2人でやった。そして、約半年後の2012年10月には店をオープン。一緒にお店をやるのだからと、結婚することに。

 「物件を決めたらやるしかない。元気があればなんでもできる、です(笑)」(恭子さん)

 店で供される定食は、茨城県西部の野菜を使った、恭子さんの手料理。実はこの野菜、大輔さんの母が実家で栽培しているものだ。

  「農業のプロではないけど、アマでもなく、自分たちで食べきれないくらいの野菜を作っていて、よく送ってくれてたんです。農薬をほとんど使わず、情熱を持って作っているから、この野菜をぜひ使いたいと思って」(大輔さん)

 「スナップエンドウ、ソラマメ、ズッキーニ、ラディッシュ、丸大根など、どの野菜も本当においしくて! 店でお母さんの野菜を使いたいって言ったらすごくよろこんでくれて、カフェに合わせた野菜も作ってくれています」(恭子さん)

 大輔さんの母が丁寧に作った野菜は、定食につく総菜やサラダ、パスタの具などで堪能することができる。一方、定食の人気メニューはチキン南蛮や鶏のから揚げなどの肉料理。いずれも家庭料理の定番だが、恭子さんはひと手間のアレンジを欠かさないようにしている。

 「チキン南蛮のタルタルソースも手作りですが、夫の母が作るらっきょう漬けがおいしくて、これを隠し味に使っているんです」(恭子さん)

 そんな料理を引き立てる器は、強烈な個性はないものの、どんな料理にもなじみ、温かみが感じられる沖縄のやちむんや栃木の益子焼などが中心。大輔さんと恭子さんの共通の趣味が食べることと焼き物なだけあって、壁一面の本棚にも、2人の蔵書である食や器関係の本や、各地で仕入れた器が飾られている。

  「家にたくさん本や器があったので、店に置けたらいいなと思って大きな本棚を作りました。堂々と買える理由もできますし(笑)。でも、手軽に読めるせいかマンガを読まれる方が多いので、もっとじっくりいろんな本を読んでもらいたくて、最近は貸本もはじめてみたんです」(大輔さん)

 「カフェをやってみよう」という軽い思いつきから、あれよあれよと気づけば4年が過ぎようとしている。

  「今までお店を続けていられていることが一番びっくり。特にお客さんと会話をすることはなくても、同じ人がまた来てくださった時、『うちの店を気に入ってくれたのかな』と思えてうれしくなります」(恭子さん)

 店のコンセプトは、『「ハレの日」ではなく、いつもと変わらない「普通の日」のためのカフェ』。店名も、何かと慌ただしい東京でくつろいでもらえる店にしたくて、「のんびりする」「ゆっくり座る」という意味の古語「ねまる」から名付けた。普段使いの器に、定番の家庭料理。いつ来ても、ゆったりとした時間を過ごせる居心地のいい場所。そこには2人の歩みも刻み込まれている。

■おすすめの3冊

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「料理王国」(北大路魯山人)
料理の味や美しさの追求にこだわった、北大路魯山人。その料理哲学が随所に感じられる一冊。「北大路魯山人が好きで、料理の描写が本当に美味しそうで。昔にこれだけのこだわりを持って食に情熱をかけていたのは本当にすごいこと」(大輔さん)

「カリヨン黒板日誌」(しょうぶ学園)
鹿児島にある知的障害者更生施設内にあるパン工房。店の前には同店で働く男性がほぼ毎日書いているメッセージ黒板があり、本書はそのメッセージ集。「季節のことや、日常のふとしたことなどが綴られているのですが、思わず見入ってしまう強さがあるんです」(大輔さん)

「夜中の薔薇」(向田邦子)
向田邦子最後の随筆集。「このエッセイ集の中に『手袋をさがす』という一編があって、若い女性が自分は何をしたいのか悩んでいるのですが、20代前半の頃の自分に重なり、自分の納得のできることをして生きていきたいと思ったんです。それが今の店につながっているような気がします」(恭子さん)

(写真 石野明子)

    ◇

NemaruCafe
東京都新宿区水道町1-23 石川ビル2F-2

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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