花のない花屋

娘へ あの日から5年、希望の花束を

  

〈依頼人プロフィール〉
佐々木めぐみさん 36歳 女性
宮城県在住
主婦

    ◇

あの日の朝、娘を幼稚園に送り出したとき、こちらを振り向いた顔が、まさか最後になるとは思いもしませんでした。

2011年3月11日、午後2時46分。経験したことのない大きな地震が石巻を襲いました。揺れがおさまったとき、娘を幼稚園まで迎えに行こうかどうか一瞬迷いました。でも「たどり着かないかもしれない」と思い直し、私はそのまま待つことにしました。

ちょうどその頃、石巻市の日和山の中腹にある幼稚園から、一台の通園バスが海側へ下りていきました。その後、バスは津波と火災に巻き込まれ、バスの中に残された幼い園児5人が亡くなりました。その中の一人が、私の次女、明日香でした。小学校入学を1カ月後に控え、亡くなりました。

5年経った今でも、もしあのとき私が迎えに行っていたら……という思いが頭をよぎります。心にぽっかりと穴が空いてしまい、何をやってもふさがりません。希望も、未来も感じられないまま時間だけが過ぎていきます。

当時6歳だった明日香は、私たち家族のムードメーカーでした。とても明るく、いつもみんなを笑わせてくれました。歌が大好きで、あの頃は幼稚園で覚えたばかりの「歌えバンバン」をよく歌っていました。

生前、明日香はいつも楽しみと笑いをくれたのに、私は何もしてあげられませんでした。土日も仕事をしていたので、家族で遠出もしたことがないし、遊びに連れて行ってあげたこともありません。毎日慌ただしく過ごし、私は十分に家庭での時間をとってあげられませんでした。それが心残りでなりません。

今は、明日香のいない日々を、モノを買ったり旅行に行ったりして埋めようとしています。明日香に買ってあげたかったリカちゃん人形、プリキュアのおもちゃ……そして、連れて行きたかったディズニーランド。あれから私たち家族は、毎年のように3人でディズニーランドに行って、明日香へのお土産を買っています。

でも、それでは何の進歩がないのもわかっています。モノを買うことでなく、違う形で希望を持って前へ進めるきっかけとなる花を作ってもらえないでしょうか。

明日香は生きていたら小学校6年生。エメラルドグリーンのような緑色やキラキラしたものが好きでした。明日香という名のついたユリの花があると聞いたことがあります。もしあれば、そんな花も入れてもらえないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

同じように子どもを持つ親として、佐々木さんの経験されていることは、想像を絶します。お子さんをある日突然失った悲しみは、はかりしれないものでしょう……。そんなときだからこそ、そっと寄り添えるのがお花なのかもしれません。

今回は、明日香さんの名にちなみ、アスカという百合の花をメインにアレンジをしました。ピンク色の美しい花です。今はまだつぼみですが、これから徐々に咲いてくるはずです。

まわりは、明日香さんが好きだったという、“キラキラとしたエメラルドグリーン”をイメージし、ライトグリーンでまとめました。サンキライ、グリーンベル、ナデシコ、ブルーベリー、ゼラニウム……。実ものも何種類か加え、“キラキラ感”を出しました。どこか宝石箱のような、みずみずしいグリーンの組み合わせです。

どこにもぶつけようのない悲しさ、無念さ、虚無感……そんなものを抱えているときにこそ、お花や植物をゆったり眺め、少しでも前向きになってもらえたら……。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

娘へ あの日から5年、希望の花束を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


天国の母に伝え続けたい「ありがとう」

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