ほんやのほん

油揚げって、自由だなあ。『愛しの油揚げ』

油揚げ-1

撮影/猪俣博史

2013年4月から14年8月まで、毎週、代官山蔦屋書店のブックコンシェルジュがおすすめの本をご紹介していた連載「ほんやのほん」。今週から、二子玉川 蔦屋家電と、湘南 蔦屋書店のコンシェルジュも加わり、総勢12人が独自の視点でセレクトした「いま読みたい本」のお話をお届けします。初回は湘南の蔦屋書店から――。

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「今度、油揚げの本を出すのよ」。著者の高橋良枝さんからこううかがったときは、正直驚いた。「油揚げのレシピで一冊?」「そんなに調理法があるのかしら?」

でも、そんな疑念は、届いた本をパラパラと眺めてあっという間に一掃された。「油揚げって自由だなあ~」。ページをめくるたび、自分のなかの油揚げ観が心地よく崩されていく。切って焼いてカナッペ風、袋にしてピタパン風、細かく刻んであえものに、ざくざく切って含め煮に……。

和食はもちろん、チーズやオリーブオイルなどと合わせたり、ナンプラーでエスニック風にも味付けできるなど、油揚げとは、実に懐の深い食材なのだとあらためて気づかされる。

どちらかというと地味で、脇役でしかなかった油揚げが、とびきり楽しく、おいしそうでチャーミングな料理に変身している。しかも、その応用の方向性にはひとつも無理がなく、どれも容易に味の想像がついて、思わずゴクリとつばを飲み込んでしまう。

これらのレシピを考案された高橋良枝さんは、編集者として長年働きながら、2人のお子さんを育て上げた方。内外各地のおいしいものたくさん食べてきた舌と、限られた時間のなかで料理をしてきた手際とセンス、潔さが、どのレシピにも生きている。

そして高橋さんの本業が編集者であるということが、実はこの本の重要な鍵なのではないかと、元編集者である私は、勝手に思っている。なぜなら、油揚げのあり方は、理想の編集者の姿に思えるからだ。高橋さんは、本のなかでこう書いている。

「どんな食材にもそっと寄り添って、己を主張せず、食材のおいしさを際立たせてくれる油揚げ。(中略)おいしさに一役も二役もかってくれる油揚げですが、主役になることはまれ。脇役に甘んじている姿勢も、好ましいのです」。

裏方として、著者という主役の仕事をフォローしたり、もり立てたりしてひとつの作品をつくり上げることに徹する編集者だからこそ、油揚げのよさを十分理解して表現できるのではないか?

脇役が珍しく表舞台に立った一冊。油揚げが「愛し」くなること、うけあいだ。

(文・武富葉子)


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    「個人的ごちそう」を読む楽しみ、作る楽しみ。『かぼちゃを塩で煮る』
       

       

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  • >>おすすめの本、まだまだあります

    PROFILE

    蔦屋書店 コンシェルジュ

    そのとき一番おすすめの本を、週替わりで熱くご紹介します。

    ●代官山 蔦屋書店
    間室道子(文学)
    ●二子玉川 蔦屋家電
    岩佐さかえ(健康 美容)/北田博充(文学)
    嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)
    松本泰尭(人文)/柴田あすか(デザイン)
    ●湘南 蔦屋書店
    川村啓子(児童書 自然科学)/藤井亜希子(旅)
    八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)
    ●柏の葉 蔦屋書店
    大川 愛(食)

    武富葉子(たけとみ・ようこ)

    湘南 蔦屋書店 料理・暮らしコンシェルジュ。
    料理を中心に、暮らしの本や雑誌の編集に二十数年携わったのち、思うところあって売る側へ。現在は料理だけでなく、手芸の楽しさを広めるべく、書店の枠を超えて活動中。通勤電車での編み物が小さな楽しみ。

    まだ見ぬ世界へ。本は、旅をつれてくる

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