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<45>いろんな可能性が隠れている「ノーコンセプト」の店

<45>いろんな可能性が隠れている「ノーコンセプト」の店

 2000年初頭、東京はカフェブームに湧いていた。駅から離れた場所や路地裏にあり、自由度の高い空間が特徴だった。東池袋駅にほど近く、サンシャインシティの裏手にある「KAKULULU」のオーナー、高橋悠さん(30)は学生時代、そんなカフェの数々に魅了された。

 「かっこいい店員さんがいたりして、一種のサロンみたいでいいなと思ったんです。店にギャラリーがあったり、ライブをやったりと、ハコものの可能性を感じました」

 いつか自分でカフェをやってみたい、と漠然と思うようになった。卒業後、カフェで働いたり、音楽制作の仕事などをしたりしていたが、ある日偶然、地元の東池袋で築45年の古い建物と出合った。それは、Y字路に面した、三角の形をした空きビル。新聞販売店として使われていたが、長く空いたままになっていた。

 「はじめて見た時は廃虚みたいでしたけど、この建物の持つポテンシャルを感じたんです」

 1年かけてリノベーションを行い、2014年5月にオープンにこぎつけた。

 「自分たちでできることはやろうと、昔の内装をスケルトン状態に戻して、週末ごとに友達を呼んで壁を白く塗ったりしていました。でも作業をしているうちにどんな空間がいいのかわからなくなり、途中から僕が好きなデザイナーに加わってもらい、二人三脚で内装をやることにしたんです」

 山形を拠点にする家具デザイン事務所「アトリエセツナ」のデザイナーが加わり、店が少しずつ形作られていった。2階の壁一面を本棚にしたのは、はじめから心に決めていたこと。高橋さんの母が編集者で、家に本があるのが日常だったという。建築やデザイン、音楽、サッカーの本など、約8割は高橋さんの蔵書だ。

 じっくり時間をかけ、一から創り上げていったこの店のコンセプトは「ない」という。

 「表参道や原宿だったら店のコンセプトがないと厳しいかもしれませんが、東池袋なら自分が面白いと思ったことをやれて、店と一緒に成長できると思ったんです」

 例えばフードメニュー。ブラジル料理をいろいろ出しているが、ブラジルは店のコンセプトでも何でもない。

 「僕は音楽好きで、ブラジルのサンバやボサノバも好きなのですが、ブラジルはミックスカルチャーの国。料理もいろんな文化が合わさっていて、世界中の誰もが好きな味なんです。だからブラジル料理を出すことに決めたのですが、突然アフリカ料理に変わることだってあるかもしれません。だってノーコンセプトですから(笑)」

 不定期で開催されるライブもそう。高橋さんが好きなミュージシャンに声をかけたり、店を通じて知り合ったミュージシャンの輪が広がったり、気がつけば月に数回ライブをやっている時もある。

 「音楽に対する愛は強いので、妥協はしたくないんです。音楽好きの人たちの間でこの店のことが知られるようになったり、一度ライブに来てくれた人が、別のライブを見に来てくれるようになってうれしいですね」

 店名の「KAKULULU」は、「隠れる」の古語で、カフェをやる前から温めていた名前。表記をRをわざとLにしたのも、一見、何語かわからない雰囲気に惹(ひ)かれたからだ。

 ある人にとってはジャズクラブかもしれないし、別の人にとってはギャラリーかもしれない。店に“隠るる”ものを見つける楽しみが、ここにはある。

■おすすめの3冊

ブックカフェ

「カフェをはじめたくなる本、カフェをやめたくなる本」(塚本サイコ、山村光春)
98年に表参道にオープンし、2001年に惜しまれてクローズしたカフェ「デザートカンパニー」。ミュージシャンのオーナーが店を作り、葛藤する様子を記した一冊。「今回はカフェを作るのに参考にした本を3冊紹介します。カフェをやめたくなるような出来事も生々しく書かれていて、これはすごく勉強になった本です」

「TRUCK NEST」(TRUCK)
大阪の人気インテリアショップ「TRUCK」が古いバス停留所のあった土地に一から新しい居場所(NEST)を作る様子を記録。「更地から建物を作っていく様子を日記調で綴(つづ)っているのですが、いろんなトラブルも多く、僕がこの店を作っている時に随分励まされました」

「バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由」(林伸次)
渋谷のワインバー「bar bossa」が、自分の店で見たことや聞いたこと、そこから「生み出したこと」などについてまとめた本。「ここはボサノバのバーで、僕も知っているお店。店を続けていく上でのハウツー本のようなもので、嫌な客の断り方とか、トラブルの解決方法などが書かれています。店を始めようと思う人はぜひおすすめします」

(写真 石野明子)

     ◇

KAKULULU| COFFEE MUSIC GALLERY
東京都豊島区東池袋4-29-6

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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