花のない花屋

私のもう1人の母 みっちゃんへ

  

〈依頼人プロフィール〉
田中美代さん 50歳 女性
広島県在住
自営業

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物心ついたときから、私には“母”が2人いました。1人はもちろん本当の母、そしてもう1人は母の10歳年上の姉、みっちゃんです。

母は7人兄弟の末っ子で、みっちゃんは上から2番目。早くに両親を亡くした母にとって、彼女は親代わりでもありました。

結婚して私が生まれると、みっちゃんはそれまでの水商売をやめ、食堂を始めたそうです。それ以来、いつも私たち家族を近くで支えてくれました。

分不相応な12段飾りのおひな様を買ってくれたのはみっちゃん。厳しい父の目を盗んで、私のお皿からにんじんを食べてくれたのもみっちゃん。入院したときに、「栗の甘露煮がおいしかった」というと、毎日タクシーを飛ばして届けてくれたのも、出かけるたびに、街一番の子供服屋さんで、たくさんのかわいい洋服を買ってくれたのもみっちゃん。楽しい思い出しかありません。

そんな彼女は、80歳になる今も、1人で食堂を切り盛りしています。毎日三輪自転車に乗って仕入れをし、お好み焼き、カレーコロッケ、焼き飯など、「みっちゃんの作るんは美味しいじゃけ」と、愛情たっぷりの料理を作ります。今でこそ日曜日を定休日にしていますが、つい数年前まではお盆とお正月以外は休みなく働いていました。

そんなみっちゃんに育てられた私は、洋服大好き、仕事大好き。洋服のオーダー店を生業にし、朝から晩までミシンを踏む毎日です。女ひとりでも自立できるんだ、と教えてくれたのはみっちゃんです。

近くにいるから、いつでも会えるから……忙しさにかまけ、つい疎遠になっている今日このごろ。いけん! 近いうちに温泉でも誘おう! その前に、東さん、愛情豊かなみっちゃんにとびっきり優しく、元気になる花束を作っていただけないでしょうか。紫が好きなので、紫やローズ系のピンクのグラデーションでアレンジしてもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

みっちゃん、と聞いてすぐに思い浮かんだ花があります。実は、ふだんから僕がよく使うピンクのダリアに“ミッチャン”という名の花があるのです。今回は、それを使おうとすぐに決めました。

ピンクと紫のグラデーションでというご希望があったので、ミッチャンを中心に、アジサイ、トルコキキョウ、カーネーション、アスター、バラ、モナルダ、アガパンサスなど、ピンクと紫のグラデーションでまとめました。色のトーンを生かすため、今回はあえてグリーンはなしです。アクセントに、エアプランツであるチランジアを加えましたが、チランジアの花もピンクと紫です。

ほっこりとしたやさしいトーンのアレンジに仕上げましたが、きっと“みっちゃん”もそんな女性なのではないでしょうか。反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

私のもう1人の母 みっちゃんへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


15年来の親友、新しい門出を華やかに祝いたい

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