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夏の原風景がここに。『金魚ノ歌』

夏の原風景がここに。『金魚ノ歌』

撮影/馬場磨貴

夏がやってきました。今年は酷暑らしいですね。 夏バテがとても心配です。夏といえば、あなたは何を思い浮かべますか? スイカ? 花火? 今やブームのかき氷? 夏の風物詩はたくさんありますが、私がまず思い浮かべるのは「金魚」です。

金魚といえば思い出すのは、子どもの頃、夏が来るたび遊びに行った祖父母の家です。長い廊下や縁側がある昔ながらの日本家屋に、大きな水槽、そこに堂々たる金魚が3匹いました。当時は生き物を飼ったことがなかったからでしょう、悠々と泳ぎ回る金魚が面白く、飽きずに眺めていました。これが私の夏の原風景と言えるのかもしれません。

そんな私が今、とても魅せられている金魚がいます。今年6月に作品集『金魚ノ歌』が発売された、金魚絵師・深堀隆介氏の描く金魚たちです。升のなかに一匹の金魚が泳いでいる。真っ赤なうろこに、ひらひら透ける尾ひれ。

先日、展示会で作品を実際に目にしましたが、これが描かれたものだとは信じられませんでした。実はこの金魚たちは目を離した隙に泳ぎ回っているのではないだろうか? そう疑ってしまうくらい生き生きとしたリアリティーのある金魚です。「この金魚、なんです!!」と話し回りたいくらいの衝撃です。魅了されました。今にも泳ぎ出しそうな生命力は、作品集の写真からもしっかり感じられます。

このホンモノと見まがうばかりの金魚を生み出すのは、深堀氏独自の3Dペイントの技法です。器の中に透明樹脂を薄く流し込み、固まった上にアクリル絵の具で、まずは金魚のヒレなどを描きます。そしてまた一層、透明樹脂を流し込み、その上に今度は胴体を描き、そしてさらにまた透明樹脂を……という工程を繰り返して、この立体的な金魚が出来上がります。

「なんだ、樹脂の上に描いて重ねているだけか」と思ったあなた、ちょっと待ってください! これはそんなに簡単なことではありません。樹脂は硬化するまで、なんと2日間という長い時間がかかるのです。描いては2日待ち、描いては2日待ちの、繰り返し。制作には体力と、何より忍耐力が必要なのです。

時間をかけ丁寧にじっくり向き合い描かれた金魚だからこそ、こんなにも魂が込められた姿になるのだろう、と深く感じました。
水の中を悠々と泳ぐ金魚。飼うのはムリでも、本だったらいかがでしょう? 夏の暑さを忘れるアイテムに、風鈴、うちわ、金魚(の本)をおすすめします!

(文・小谷野純子)

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二子玉川蔦屋家電、人文コンシェルジュ。
哲学・宗教をはじめ、日本文化、文芸等幅広く担当。本好きが高じて本屋へ転職し、書店員歴は早8年。新たな世界との出会いのきっかけに「本」をご提案していきたい。

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