このパンがすごい!

《特別編》食べて応援! 熊本の小麦とパンを巡る旅(前編)

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サンドイッチといっしょに川野シェフのおばあちゃんの作った高菜も販売(グリュック)

 南阿蘇にパンダイゴというパン屋がある。熊本の地震で店舗が損壊し、いま営業していない。ダイゴさんを応援できることはないか。そう思って、熊本を訪れたのだけれど、上道大吾(ダイゴ)さんはにこやかに私を迎え、「いま時間がありますから」と言って、熊本のパン屋、パティスリーを案内してくれた。いずれの店も、熊本県産、九州産の小麦を使って、地元を盛り上げようとしている腕利きばかり。では、熊本・小麦の旅へ出発!

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ゆるキャラもかわいいネギパン売り場(高岡製パン)

 出会いは、第1回の「日本全国ご当地パン祭り」だった。高岡製パンの出品したネギパンが、横須賀海軍カレーと優勝を激しく争ったのだ。惜しくも優勝は逃したけれど、その味は脳裏に刻まれた。熊本県産小麦に熊本のネギを混ぜ込む。地元愛たっぷりのあのパン屋さんは、地震で大丈夫だったのか?

 「表のガラスはぜんぶ割れました。ミキサーはひっくり返るし、天井は落ちるし」と高岡辰生社長。初代が山から材木を切り出して自ら荷車で運んで作った、創業当時のままの店舗が被災してしまった。厨房(ちゅうぼう)に残る地震の傷痕は生々しいが、創立と同い年64歳の高岡さんはお元気。毎日厨房に立って、社長自らネギパンを焼く。

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ネギパン(高岡製パン)

 丁寧にネギを下処理して香りをシンプルにし、誰もが食べやすく。ミキシングと発酵で作りだした心地いい歯切れともちもち。ネギにカツオブシ、ソースマヨという粉もん黄金カルテット。日本人のDNAに響く、地元小麦と地元野菜のおいしい食べ方の完成形である。

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「高岡製パン」の外観

 たくさんのパンが並ぶにぎやかな店、ベッカライグリュック。切り盛りするのは、若き女性シェフ、川野智子さんだった。地震直後は、家が被災し風呂に入れない人のため、店にある浴室を開放したという。

 ベースはドイツパンにある。ベルリナーラントブロートのうつくしい模様にも川野さんのきちんとした技術は表れていた。

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「グリュック」のベルリナーラントブロート(中央)

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ブレッツェルの野菜サンド(グリュック)

 おもしろいパンが目に付く。ブレッツェルをコッペのように成形し野菜をはさんだサンドイッチ。噛(か)むとジュースがどばっと飛び散った。なんて甘くておいしいトマトだろう。太陽をいっぱい吸い込んだ味。ああ、これが火の国の味なのだと思った。ブレッツェルのかりむちっとした食感、塩気も野菜をおいしくしている。

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メロンパン(グリュック)

 羽根つき餃子(ぎょうざ)ならぬ、羽根つきメロンパン。上にかかったビスケット生地が鉄板に垂れ落ちてまわりに広がっている。かりかり割れて広がる甘さの愉楽。あらゆるメロンパンが羽根つきである世界を夢想さえするおいしさだった。

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「グリュック」の川野智子シェフ

 次に訪れたのは、サンタプレというパティスリー。松村英樹シェフは、シュトーレン、ケイク、シフォンケーキと熊本県産小麦でお菓子を作ることに積極的である。

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熊本県産小麦を使ったケーク(サンタプレ)

 私が食べた4種類のケーク。きれいでとりすましたお菓子ではなく、素材の個性が荒々しく挑みかかってくる感じなのである。鼻腔(びこう)を立ちのぼる、石臼挽(び)きならではの小麦フレーバー。気泡はぷくっとして、繊細すぎないざらざらとした舌触りも感性を刺激する。中でもピスタチオは、小麦の旨味(うまみ)とピスタチオのコクとのこすれあいが新感覚。そして瞠目(どうもく)したのが、フランボワーズストロベリー。ベリーの華々しい風味が、ブラン的な香ばしさと見事に響きあって、小麦の中のフルーティーさを引き出していた。

 松村シェフは、熊本産小麦に出会って、新しいお菓子の地平を開拓しつつある。「熊本県産小麦に変えて、味に厚みが出ました。バターとの相性がすごくいいです」

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色とりどりのタルト(サンタプレ)

 熊本を代表する3人のお菓子屋さんとともにホイッパーズを結成。地元の小麦で熊本を盛り上げようと意欲的に活動する姿がかっこいい。4人4種のマカロンを1セットに「がんばろう」のメッセージをこめた「復興マカロン」を販売した。次なる取り組みはケーク。8月10日に予定されている熊本県産「新麦」の解禁に合わせ、4人4様のケークをイベント「熊本の新麦を食べよう」で販売する。4人のシェフが熊本の新麦という素材をどのように見たか。火花散るバトルが繰り広げられることだろう。(→後編につづきます

高岡製パン
熊本市東区栄町1-11
096-368-2550
8:00~19:00(日休、月2回以上祝日がある場合は1回祝日休)

ベッカライ グリュック
熊本市南区富合町田尻305-1
096-357-7001
8:00~18:00(第2・4月曜休)

サンタプレ 城山本店
熊本市西区上代10丁目12-5
096-283-1123
10:00~20:00(不定休)

     ◇

熊本の新麦を味わう二つのイベントが8月に開かれます。

「熊本の新麦を食べよう」
熊本の人気ベーカリー、パティスリーが集まり、熊本県産の新麦を味わう収穫祭。
日時:8月10日10:30~
場所:ぴぷれす広場(熊本市中央区上通町2)
参加店:高岡製パン、サンタプレ、パ・パン、メゾン・ド・キタガワ、パンダイゴ他

「作って! 食べて! 熊本応援!!」
熊本からパンダイゴの上道大吾シェフを人気店ZOPFの講習会場に迎え、「熊本の素材を使ったサンドイッチレッスン」「立食パーティー」「熊本産小麦を使ったパン講習会」と三つのイベントを展開。
日程 8月20日(土)・21日(日)
場所 Lehrstube ZOPF(千葉県柏市東山2-6-8)
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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

ドイツ仕込みの妙技、世界遺産の町の「ブレッツェル」 / ベッカライ&コンディトライ ヒダカ

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