おいしいゲストハウス

<4>“ゲームのルール”は絶えず変わっている ~UNPLAN Kagurazaka(後編)

おいしいゲストハウス

>>前編から続く

 2014年、ゲストハウスを開業すべく、福山大樹さん(42)は、年齢がひと周り違うサークルの後輩と合同会社FIKAを始動。神楽坂に土地が見つかると、さっそく理想の空間造りに手をつけた。最初にやったのは、あちこちのゲストハウスを見て回ることだった。都内はもとより、鎌倉、神戸、京都などいくつかの気になるゲストハウスを一人で泊まり歩いた。

 福山さんが作りたかったのは「日本人と外国人が交流でき、観光案内など旅行者をサポートできる場所」だった。それを設計士や集まったスタッフに相談し、具体的な形に落とし込んでいく。

 「情報収集と発信をしていく場所を目指していたので、当初から1階のラウンジは必要だと思っていました。泊まるだけの場所だと交流が生まれず、生の声を聞くことができません。僕にとってラウンジはなくてはならないものでした」

  結果、できあがったのは1階がカフェ&バーのラウンジで、2階、3階が宿泊フロアという3階建ての空間。1階はゲストハウスの受付やコンシェルジュがシームレスになっており、スタッフと宿泊客、カフェのお客さんが自由に行き来できる。受付は部屋の真ん中にアイランドカウンターに設置し、そこに観光案内のパンフレットや宿泊客へのレンタル用品なども置くことにした。

 UNPLANという宿の名前は、開業3カ月前に決めた。

 「目的もなく気軽に人が集まれる場所にしたいと考えていたんですよね。目的がある人はそもそもサポートする必要がないので。ここにふらっと来たら偶然の出会いがあるよ、という意味を込めて、“unplanned traveller”とか“unplanned travel”、“unplanned encounter”といった言葉が出てきたんですが、言いやすく“unplan”にしたんです」

 “偶然の出会い”を仕掛けるべく、積極的にイベントの企画もしている。たとえば、毎週日曜の16時から開催している“ランゲージ・エクスチェンジ”。ドリンク1杯で2時間参加でき、事前の予約も必要ない。気が向いたらふらっと参加し、外国人は日本語を、日本人は外国語を学べるというイベントだ。また、近くにある東京理科大の学食ツアーや、神楽坂の街歩きツアー、お祭りでのおみこし体験などもいま企画しているところだ。

 福山さんにとって、宿泊業はこれまでやっていた仕事とはまったく違う分野だが、「毎日学ぶことがあって楽しい」と言う。しかし、40代になってからの異業種での起業に不安はなかったのだろうか。

 「僕の持論なんですけど、これだけ急激にいろいろなことが変わる時代なので、持っているノウハウよりも、どれだけ早くその分野のことを学べるかが重要だと思うんです。たとえば、ネット業界なんて新しいことが出ても1年で陳腐化していってしまいます。だから、持っているノウハウや知的資産なんて、せいぜい使えて1、2年なんです。じゃあ、どうするかというと、一生学んでいくしかない。逆に言うと、学べばいいんです」

 必ずしも、その道で長いキャリアを積んだ専門家じゃなくてもいい。新規参入であっても、いち早く学び新しい視点をもって取り組む人の方が強いのではないか――。そんな確信があったからこそ、福山さんは新しい事業を始める際も不安はなかったのだ。

 「結局、イノベーションが起きている世界では、絶えず“ゲームのルール”は変わっているんです。顕在化していなくても、あちこちでいつも小さなルールが変わっている。それって、旅行業界も同じだと思うんですよ。昔は『ロンリープラネット』や『地球の歩き方』を持って旅に出ていたのが、いつの間にかパソコンさえ使われず、スマホのアプリで予約したり、Instagramでレストランの検索をしたりする時代になっています。“ゲームのルール”が変わったんです。いくらノウハウを持っている人たちでも、プレーヤーの“新ルール”に対応していなかったら、どんどん衰退します。でも、いち早く新しいルールに気づき、そこでプレーするために 何を身につけたらいいのか考え、ちゃんと対応すれば、まったく勝負にならないということはないんじゃないか、と思っているんです」

 旅行業界に押し寄せる大きな変化の波に、福山さんは勢いよく飛び込んだ。とはいえ、気負いもない。

 「単純に考えると、宿泊業って奥深いとは思いますが、行うことはすごくシンプルです。基本的には掃除して、ベッドメイクして、お茶を出して、お迎えして……という作業だけで言えば暮らしの延長のようですよね。民宿はほとんどが家族でやっているビジネスです。だとしたら、絶対必要不可欠なノウハウはそんなにないんじゃないかなと思って……」

 しかも、会社の運営に関してのノウハウはすでにある。社内の情報共有や人の集め方、モチベートのし方、仕組みの作り方は基本的には変わらない。ウェブを通して人にサービスをしていたことが、リアルになっただけではある。これまでの経験がまったく使えないわけではなかった。

 開業からまだ数カ月。「ここでお客さんを迎えていると、毎日が非日常で、自分が旅行に出ているような気分ですね」と笑う福山さん。人生は“unplanned”だからこそ面白い。神楽坂の路地裏に出現した新スポットには、今という時代の風がさわやかに吹き抜けていた。

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PROFILE

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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