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<47>家具は廃材で手作り 町工場を再生した緑の読書空間

<47>家具は廃材で手作り 町工場を再生した緑の読書空間

 JR上野駅をはさんで上野公園と反対側のエリアには、昔ながらの住宅街や古い町工場などが密集している。かつてメッキ工場だった建物の4階に今年1月オープンしたのが「ROUTE BOOKS」。約10年間使われていなかった建物を、個人宅のリノベーションやビルの再生などで知られる工務店「ゆくい堂」が全面的に改修した。

 社長の丸野信次郎さん(47)がこの建物に出合ったのは、浅草に構えていた事務所が手狭となり、廃材などをストックしたり、作業したりできるスペースを探していた時のこと。老朽化が激しく、雨漏りもしていたため、ビルのオーナーは倉庫として1階だけを貸し出すつもりだった。しかし、内見で、駅から近くて広々とした空間を見て、丸野さんは「全部うちで直しますから、上のフロアも貸してもらえませんか?」とオーナーに申し出た。リノベーションに長(た)けた職人集団ならではの提案だった。

 「リノベーションを手がける時、かっこいいものを作っても借り手がつかなかったり、投資した費用を回収できなければ意味がないと考えています。リノベーションはかっこよくするためではなく、一定以上の利回りが見込めるかどうかが重要なんです」

 しゃれたリノベーションが一種のブームになるなか、「利用価値のないものを作ってもしょうがない」という丸野さんの言葉は明快で、説得力がある。まずは解体作業から着手。配電や配水の工事を行いつつ、空間全体を見ながら各フロアをどのように仕上げるかを考え、具現化していった。図面なし、約3カ月間の工期だったという。

 「リノベーションというよりは解体して終わり、デザインらしいことは何もしていません」
 当初、丸野さんは2、3階をテナントとして貸し出し、4階は細かく間仕切りしてシェアオフィスにしようと考えていた。しかし、「その方が儲(もう)かるかもしれないけど、途中からつまんなくなった」と、方向転換。さまざまな人が集まって交流できる、“つなぐ場”を創り出すことにした。それが「ROUTE BOOKS」だ。

 まるでジャングルのように空間を覆い尽くすグリーン。ライフスタイル関係の新刊書が並ぶ本棚。店内は、書店というよりは植物と本好きの人のリビングルームのような趣で、センスのいい装丁の本がさりげなくディスプレイされている。

 カフェカウンターにはコーヒーやスコーンなどのお菓子がそろい、店内の好きな場所で自由に過ごすことができる。ワークショップやイベントなども開催。秋にはギャラリースペースも運営する。

 中でも特に印象的なのは、廃材を使った本棚や椅子、ディスプレイ用の棚などの家具。フォークリフトで荷物を運搬する時に使う木製パレットを重ねた棚や、床材を並べて作ったテーブルなど、どれも手作りの“一点物”だ。

 「僕に限らず、ものづくりの連中は、『これをどう加工しようか』『この木目を生かすにはどうすればいいか』といったことを考えるのが大好き。ここの家具類もそうやってできたものです」

 手元にあった廃材などでひらめくがままに作っていったため、多少長さが揃っていなくても、壁からはみ出していても、全く気にしていない。しかもそのラフさが、逆に空間にしっくりとなじんでいる。

 「お金をかけないために作ったんじゃありません。むしろ新しいものを買ってくる方が、人件費がかからない分、安上がりですよ」

 それでもなぜ、自分たちで一から作っていったのか。そこには丸野さん率いる「ゆくい堂」という会社の根底に流れる理念があった。

 「東京の工務店は倉庫を持たないんです。木材などの在庫のために高い家賃を払い続けるよりも、必要な時に材料を買って、余ったら処分してしまった方が、お金がかからないからです。でもそれで本当にいいんでしょうか?」

 「ゆくい堂」では、現場で余った材料は全部持って帰って倉庫に保管し、集めた古材は別の時に使っている。古材には新しい材料にはない表情があるからだ。店の前には木材を入れた箱を用意し、客が自由に持ち帰ることもできる。

 「板きれを取っといて、どう生かすかを考えるのも、この建物を再生させて活用するのも、根っこにある部分は同じなんです」

 古いものを再生させるとはどういうことかを、この空間は体現している。そこがとても心地よくて楽しいから、自然と人が集まるようになり、やがて本当の意味で“活用”されるのだということを。

■おすすめの3冊

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『GREAT HASHIMA 大いなる端島』(端島閉山40周年記念事業実行委員会)
長崎にある通称・軍艦島。操業期の営みを活写した貴重な写真150点を収めた記録写真集。「これは個人的な趣味で(笑)。好きなんだけど、あえて行っていません。店には軍艦島本コーナーもあります」

『Deco Room with Plants here and there―植物とくらす。部屋に、街に、グリーン・インテリア&スタイリング』(著/川本諭、写真/小松原英介)
GREEN FINGERS代表でプラント・アーティストとして活躍する著者が、グリーンを部屋や街、さまざまな空間に取り入れるスタイリングを紹介した一冊。「店のディスプレイの参考にしています」

『FLAT HOUSE Style 01』(著・イラスト/アラタ・クールハンド、編集/浅見英治)
戦後、日本に駐留する米軍兵士のために建てられた、通称・米軍ハウス。日本的な平屋造りでありながら海外のような空間を余すところなく紹介している。「コンセプトがゆくい堂に通ずるところがあるような気がしています。この本のシリーズはよく売れていますよ」

(写真 石野明子)

    ◇

ROUTE BOOKS
東京都台東区東上野4-13-9 ROUTE89 BLDG.4F

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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