花のない花屋

中学生で家出に非行、苦労をかけた母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
渡部美奈子さん(仮名) 36歳 女性
兵庫県在住
主婦

    ◇

私は幼い頃からずっと母と二人暮らしでした。母は思いやりがあると当時に、負けず嫌いで、決して弱音を吐かない強い女性です。

とても真面目な母に育てられたのに、私はお恥ずかしながら中学のときに道を踏み外し、何度も警察のお世話になりました。小学校のときは週4日塾に通い成績もトップだったのですが、その反動か、中学にあがってからは母が疎ましくなり、家出や非行を繰り返してしまいました。

中学3年のときは教護院に送られ、鑑別所にも行きました。鑑別所には30日間ほど入っていましたが、そのとき母はまったく面会にきませんでした。「とうとう見放されたんだ……」とさすがに少し落ち込みました。出所する2日前に母がやっときてくれましたが、「面会できるの知らんかったん。ごめんね」と謝られ、そのとき初めて悪いことをしてしまった……と反省しました。

鑑別所を出てからは16歳で就職し、土木作業や深夜労働をしてお金を稼いできました。初めてお給料をもらったときから、欠かさず母にはお金を渡しています。母との絆を取り戻したのは、その頃からだったと思います。

今年1月には、母を大事にしてくれる優しい主人に出会い、すぐに新しい命を授かりました。やっとこれから落ち着いた幸せが訪れる……そう感じていた矢先、母に胃がんが見つかってしまいました。

悪性リンパ腫からの転移かどうかは近日検査をしてわかります。今は、これまであまり人を好きになれなかった私がやっと出会えた世界で一番好きな主人と、そしておなかの中の赤ちゃん、みんなで仲良く暮らして行く様子を、母にずっと見守っていて欲しいという気持ちでいっぱいです。

母は7月に69歳の誕生日を迎えました。どうかこれからも長生きしてもらえるよう、東さんにお祝いのお花を作ってもらえないでしょうか。さわやかで生命力を感じるアレンジにしてもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

さわやかで生命力を感じる花束を、とのことだったので、僕の得意なグリーンのアレンジにしました。

使用した花材は、アロエ、エアプランツのキセログラフィカ、アジサイ、マム、リリアルプ、カンガルーポー、ポリシャス、リュウカデンドロなどです。どれもグリーンなのでかっこよくまとまっていますが、女性への花束なので、可憐(かれん)な大ぶりのカトレアも加えています。カトレアの一部に入った紫色が全体の差し色になっています。

グリーン系なので全体の持ちもいいですが、アロエやエアプランツは、花が終わっても植え替えたりして楽しめます。みずみずしいグリーンは心のやすらぎも与えてくれるはず。植物を見て、少しでも未来への希望を感じてもらえたら。

  

  

  

  
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

中学生で家出に非行、苦労をかけた母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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