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<48>絵本と温もりがいっぱい 社会貢献する小さな店

<48>絵本と温もりがいっぱい 社会貢献する小さな店

 「踏み出すタイミングは、自分の意識とは別にあるんです」

 「Bookcafe days」のオーナー、小島ちふみさんは一言そう漏らした。

 道に面した階段を降り、奥まった場所に同店はある。店内の書棚には、絵本や児童書が並び、美しくディスプレイされている。いずれも古書で、小さな子どもが夢中になって読んでいたものや、誰かの心の中に今も刻まれているものなのかも……と本に宿る歴史を想像したくなるものばかり。

 小島さんが絵本にひかれるようになったのは、実は大人になってからのこと。かつて図書館司書をしていた時、勤務していた図書館に約4千冊の絵本があり、仕事の合間に全てを読破した。

 「絵本って子どものためだけのものじゃないと、その奥深さに気付かされました」

 やがて、家にあふれんばかりの絵本を集めるほどに。次第に、ただ集めるだけではなく、その良さを他の人にも伝えたいと思うようになった。

 2008年、旅行でニューヨークを訪れ、ソーホーでとあるブックカフェに足を踏み入れた。古書に埋め尽くされた店内で、飲み物を片手に読書を楽しめる空間が、ボランティアスタッフによって支えられていることを知って驚いた。

 「大きなブックカフェだったんですけど、ボランティアが運営し、その売り上げがエイズ撲滅とホームレスの支援に充てられているんです」

 一方で、日本で全く同じ形で運営するのは難しいと感じた小島さん。

 「ボランティアではなくて、あくまで持続可能なビジネスを行った上で社会貢献につなげることができれば……」

 そんな小島さんを後押ししたのは、2011年の東日本大震災だった。一瞬にして崩れる日常を目の当たりにし、それまで躊躇(ちゅうちょ)していた小島さんの視界がクリアになった。

 「ダラダラと時を過ごすのはもったいない!」

 決断してからの小島さんの動きは早かった。そして、2012年9月、20席に満たない小さな店を実現。売り上げの一部は、NPO法人「国境なき子どもたち」を通して、子どもたちへの支援に活用することに決めた。

 小島さんのこだわりのひとつに、一人で切り盛りできるだけの空間にしたいということがあった。店をオープンしてから募集していないにも関わらず、「ここで働きたい」という問い合わせが何度もあったが、すべて断っている。

 「私には絵本の魅力を多くの人に知ってもらい、店でちゃんと利益を出し続け、社会貢献をしたいという強い気持ちがあります。でも、それを人に押し付けたくはなかったんです」

 こういう趣旨に賛同する人はおそらく多いだろう。しかし、同じ方向を目指しているようでいて、実は微妙に温度差があることはよくある話。実際のところ、人と全く同じ気持ちや熱量を共有し続けることは至難の技だ。かといって、自分と全く同じ気持ちを抱かせるのも難しい。だからこそ、小島さんは一人でこの空間を守ることを決めた。

 ある時、外国の客がネットで店を知って来店し、毎年同じ時期に訪れるようになった。

 「もしこのお客さんがまた来た時、店ががらっと変わっていたらがっかりされると思うんです。自分の信念は曲げてはいけないもので、必死に守らなくてはということに気づきました」

 いつ来ても変わらない店で、それを維持するために利益を出し続けるこの空間は、たくさんの絵本と温もりに満ちている。

おすすめの3冊

『ちっちゃなほわほわかぞく』(著/マーガレット・ワイズ ブラウン、絵/ガース ウィリアムズ 、翻訳/谷川俊太郎)
ふかふかの毛皮を着た、ほわほわ家族のお話。「熊だかなんだかわからない動物の日常を描いています。親子の何気ないやりとりからいろんなことを感じ取ることができるんです」

『おちゃのじかんにきたとら』(著/ジュディス・カー、翻訳/晴海耕平)
おちゃのじかんのごちそうになろうと、やってきたとら。家の中にあるたべものをぜんぶたべてしまいます――。「動物の絵本は多いけど、これはトラが主人公。トラがお茶をしにくるというイマジネーションも面白いし、トラを自然に受け入れる家族も素敵」

『ふくろうくん』(著/アーノルド・ローベル、翻訳/三木卓)
おひとよしで、ちょっぴりまがぬけていて、善意あふれるふくろうくんの物語。「ひとりぐらしのふくろうの様子を描いた絵本。子どもの頃ってこういうこと考えていた! と思えるユニークな一冊です」

(写真 石野明子)

    ◇

Bookcafe days
東京都渋谷区鶯谷町15−10 ロイヤルパレス渋谷105

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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