ほんやのほん

静かな夜に読みたい2冊『せなか町から、ずっと』『夜廻り猫』

ほんや2-1

撮影/馬場 磨貴

ゆったりと、不思議な町の物語『せなか町から、ずっと』

いつからか海を飛び出し、空色と水色の間を泳ぐようになった巨大なマンタ。そのせなかに人が住み着き、町ができた。それが、せなか町。町に住む人々の、ささやかな生活の中にあふれる不思議な六つのおはなしと、マンタ自身のおはなしからなる7話の短編集。すべてのおはなしがゆったりとした不思議に満ちており、せなか町の住人になったような気分になる。

どんなに風が吹いてもなびかないのに、風がないときは揺れるひねくれカーテンにはある優しい思いが隠されていたり、おてんばな女の子はある日名前を落としてねこに拾われてしまったり。

中でもわたしが好きなのは、誰も鳴らし方を知らない楽器、「麦の光」のおはなし。町に伝わる伝説の楽器で、今までの演奏会でも誰も鳴らしたことがない楽器。しかし担当になったニーダは「麦の光」と向き合ううちに、人々には聴こえない、木々や動物にだけ聴こえる美しい音色を奏でることが出来るようになった。

そして演奏会で麦の光を奏でると、信じられないことに他の様々な楽器が今までにない響き方をし始めた。そう、麦の光は「他の楽器」を鳴らすための楽器だったのだ。その演奏は人や動物だけでなく、空も涙を零したほど美しい響きだったという。

一見何の役にも立たないような使えないものであっても、もしかしたら思いがけない力を秘めているかもしれない。諦めないで向き合えば、誰も出来なかったことを達成することができるかもしれない。

この不思議な物語は、そんな小さな希望を与えてくれる。何百年の間にマンタのせなかで起きた小さな物語が、心をふわっと軽くしてくれる。静かな夜にページをめくり、せなか町へ遊びに行ってみよう。

Twitter生まれの人気者『夜廻り猫』

「泣いてる子はいねが~」。涙の匂いを嗅ぎつけて、そっと寄り添う遠藤平蔵。彼は二足歩行で、はんてんをまとい、頭に猫缶を乗せて人の言葉をしゃべる猫。文章で見ると猫の擬人化マンガのようだが、ひとたびページをめくると涙無くしては読めない世界が広がっている。

Twitterに掲載された8コママンガが瞬く間に拡散され、多くの人の心をつかんでいった。猫を飼っている人にしか分からないような猫あるあるではなく、心くじけそうな時誰もが感じたことのある切なさや、ささやかな幸せに出会った時のほっこり優しい時間を描いている。

もちろん猫もたくさん出てくる。平蔵と、平蔵が助けた子猫の重郎。子猫なので自分のことを「じゅーろ」というのがとてもかわいい。2人にいつもご飯を分けてくれる片目の野良猫ニィ、平蔵の友人で先生と2人暮らしの宙さん。他にも個性的な猫がたくさん出てくるので、お気に入りの1匹に出会えるはず。

猫好きなわたしはみんな大好きだけど、最近はワガママねこのモネに心を奪われっぱなしである。モネのセリフはどうしてか声に出して誰かに読んで聞かせたくなるのだ。これはうちのねこがモネと同じようによくしゃべるねこだからかもしれない。ワガママなんだけど、「お父さんとお母さん好きなんだ」というところが本当にいとおしい。

Twitterでの夜廻り猫はまだ続いている。たくさん感想が集まれば2巻が出せるかもしれないというので、これからも勝手に応援させてもらおうと思う。

心で泣いているとあなたの元へも、遠藤平蔵がやってきてくれるかもしれない。

(文・小川舞)


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    「今、私は恐ろしいほどに寂しい」 豊かな孤独が生まれるとき
       

       

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