このパンがすごい!

ハード系パンに恋をして 国産小麦のやさしい余韻 / プース・ド・シェフ

プース・ド・シェフ(愛媛)

 プース・ド・シェフでハード系パンの棚を見たとき、思わず「あーっ」と声を上げてしまった。それほどうつくしく、おいしそうに見えた。直感には従うべきだ。私はハード系のパンをいろいろ買って食べた。フランスパンのおいしい店はいくつもある。それでもなおこの店のバゲットは私の心に深い印象を残した。

 尖(とが)った先端がセクシーで、思わずそこからかじりつく。まるでせんべいかグリッシーニのように、がりっがりっと崩壊する。それがすごく甘い。中身はむちむちしていて甘い。余韻にやさしい穀物感がたなびく。北海道産小麦に由来する風味だ。

 皮が単に厚いのではなく小気味よく割れていく感じ。中身がもちもちでありながら口溶けがいい感じ。そこにたゆまぬ研鑽(けんさん)の跡を感じた。
「13年前、松山で最初にハード系がメインの店をやりました。ライ麦のパンなんか、作った分が1個も売れない日もありました」と得居則広シェフ。

 それでもハード系を作るのをやめなかった。ハード系になじみのない松山の人にどうやって食べてもらうか。その努力が、日本人ならではの味覚に合った和のフィリングを生み出した。

 和三盆クリームサンドに感動した。バゲットにバタークリームを塗ったいわゆるミルクフランス。和三盆の甘さはあまりにおだやかで、甘いものを口にした瞬間びくっとなるあの感じがまるでない。さらに、その上品なコクによってバタークリームの甘さを分厚くしている。クリームによってバゲットの味わいが隠れるどころか、バゲット自体がよりおいしく感じられる。皮を噛(か)み締めたとき滲(にじ)みだす味わいはますます甘く、皮の持つ明るい香ばしさとも調和するのだ。

 ねぎ味噌がバゲットに合うことも、この店のねぎ味噌フランスで知った。ねぎ味噌に混ぜ込まれたバターが、味噌の発酵フレーバーと相まって、チーズにはちみつをかけて食べているような感覚になる。味噌フレーバーが引いたあと、バターの脂がぐいぐい染み込んで、バゲットの皮の甘さと旨味(うまみ)がより強調されるように感じた。

 極めつきは、じゃがバタフランス。フランスパンの中から丸ごと1個のじゃがいもが出現する。つまりは、パンのもちもちとぱりぱりを導入したじゃがバターなのである。炭水化物+炭水化物の爆発力を侮るなかれ。じゃがいもの滋味がじわっと滲み、その勢いでバゲット生地を食べ込んでいくよろこび。

 ハード系のパンではないがお米パンの衝撃についても書いておきたい。食べたら驚く、ふわんふわんの食感。しっとりさ、しなやかさ、やさしさ。ゆっくりと沈み、ゆっくりと持ち上がってくる無重力ぶり。噛み締めるともちのように歯にくっついてきて、お米の甘さがじんわりと広がってくる。前日に中種を作り20時間の発酵をとるという、時間をかけた熟成がその甘さを生んでいる。

 小麦は国産を使用。あるとき、それまで外麦(がいばく)を使っていたのを切り替えたという。
「近くに小麦があるのに、遠くのものを使わなくてもいいなと思って。北海道で小麦畑を見て、農家さんのご苦労を目の当たりにしてから、パン作りの姿勢ががらりと変わりました。心をこめてパンを作りたいという思いが強くなりました」

 国産小麦は性質がぶれやすく、狙い通りのパンを作るのがむずかしい。そのことさえ、職人の腕の見せどころと、得居さんはモチベーションに変えるのだという。それも小麦畑への思いがいつも胸にあるからだ。

プース・ド・シェフ
愛媛県松山市南江戸2-7-15丹下ハイツⅡ1F
089・923・2070
7時~19時(月休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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