花のない花屋

貧しかった幼い日、母に拒まれたカーネーションをもう一度

  

〈依頼人プロフィール〉
三浦さやかさん 40歳 女性
兵庫県在住
自営業

    ◇

私は、今までにたった一度しか母にカーネーションを贈ったことがありません。

私が小学生になる前でしたので、5歳か6歳の頃の話です。コツコツとお小遣いを貯(た)め、母の日に田舎の村の一軒しかない雑貨屋でカーネーションの鉢植えを買いました。母がよろこぶだろうと、子どもだった私はワクワクして家に持ち帰りました。

けれど、その日。母はカーネーションを差し出した私に、「これ、いくらしたの? お店に戻してきてもいい?」と聞いてきました。まさかの反応に私はショックを受け、泣きながら家を飛び出しました。田舎の村ですので、その日のうちに保護されましたが、大変傷つき、もう二度と母には花を贈るまい、と決心しました。

それからずいぶん月日が流れ、私も当時の母の年齢を超えて、実家が大変に貧しかったことを理解しました。幼い頃から女手ひとつで私と妹を育て、毎晩遅くまで働いてクタクタになっていた母。経済的に大変だったでしょうに、いつも母は笑顔で私たちを育ててくれました。私が家出したあの日、半狂乱になって私を捜してくれたことを後で知りました。

数年前、母はあのときのことを私に詫(わ)びました。小さな子どもがせっかく貯めたお小遣いを、自分のための花に使ってしまったことをとてももったいないと思ったこと。そして、その分のお金で子どものよろこぶものを買ってあげたかったのだ、ということ……。

40歳になったいま、もう一度母にカーネーションを贈りなおせたら、と思います。できればあの日、私が選んだ赤いカーネーションで、東さんにアレンジしていただけないでしょうか。

母はもう退職しましたが、昔は学校給食や個人経営の病院の食事を作る仕事をしていました。地味に質素に生きてきた人です。どうぞよろしくお願いいたします。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回は、“ザ・カーネーション”のアレンジです。三浦さんの思いをそのままストレートに伝えたくて、赤いカーネーションだけでまとめました。今回のようにぎゅっとまとめると花びらのひだが際立ち、また違う花の魅力を感じられるような気がします。

リーフワークのグリーンも、実はカーネーションです。茎についている葉をぐるっと丸めて挿しました。カーネーションだけのアレンジは初めての試みです。

「花より団子」というのは、やはり仕方のないこと。だけど、「花は二度と贈るまい」と決心した三浦さんが、大人になって「贈りなおしたい」という気持ちになったのはすごくすてきだなと思いました。お母さんの反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

貧しかった幼い日、母に拒まれたカーネーションをもう一度

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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