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<49>鎌倉の端、40年の時を重ねた書店がブックカフェに再生

<49>鎌倉の端、40年の時を重ねた書店がブックカフェに再生

 湘南モノレール・湘南深沢駅から続く商店街の一角に、かつて昔ながらの小さな書店「栄和堂」があった。本や雑誌のみならず、文具や雑貨などもそろうその店は、地域で40年間親しまれてきた。ところが店の主(あるじ)がガンで2014年3月に急逝し、店は惜しまれながら閉店してしまう。

 その1年半後となる2015年11月、店は「ブックスペース栄和堂」としてオープン。変わったのは店名だけではない。店内の本を自由に読めるカフェになったのだ。店長は亡き店主の甥(おい)である和田淳也さん(32)。鎌倉で生まれ育ち、叔父が営む書店にもよく通っていた。

 「はじめはそのまま本屋を続けてくれる人を探したのですが、みつかりませんでした。私の父と兄が会社を経営していて、いったん会社が店を借りることになったのですが、何もできずにいたんです」

 当時、和田さんは大阪で会社員をしていたが、会社勤めが自分に合わないのではないかと違和感を感じ続けていた。そこで会社を辞めて、父と兄の会社に入社。店をどう活用するかを考える役割を担うことになった。

 「経験やノウハウがないため、本屋を再開するのは厳しいと思いました。でも、40年間ここにこういう店があり、叔父が作ったこの場所を残したいと思ったんです」

 店の壁面にある備え付けの本棚は、桜の木を使ったオーダーメイド。レンガ色の床タイルは、客が歩いて傷がついているところもあれば、長年本棚が置かれていてきれいなままのところもある。叔父がこだわって作り、長い時が刻まれた本棚と床はなんとか残したいと思った。

 「本があれば、本を介して会話ができます。ふらっと来てふらっと出ていける、いい意味での放置であり、誰でも受け入れることのできる場所になればいいなと考えるようになりました」

 その答えが、本を自由に読めるカフェだった。はじめは和田さんと父、兄の蔵書を持ち寄って本棚に並べたが、5千冊が収納できる本棚は到底埋まりそうもない。すると、開店を知った地元の人たちが本を持ってきてくれるようになった。今も少しずつ本は増えている。

 「40年間書店として営業してきて、地元の人がみんなここを知っています。だから、店長の考えや嗜好(しこう)を打ち出すんじゃなくて、地元の人に委ねることにしました」

 本屋を営んでいた叔父もまた、本屋なのに客の要望があれば、文具や雑貨などをそろえるようになっていった。知らず知らずのうちに、そのDNAを和田さんも受け継いでいるのかもしれない。

 本は売ったり貸し出したりはしていないが、自由に読むことはできる。そこで、和田さんは「栞(しおり)」を置くことにした。読みかけの本に栞を挟んでおき、後日続きが読めるようにするためだ。街の書店には常に新刊が並んで変化するように、和田さんも定期的に本の入れ替えを行うようにしている。でも栞が挟まっていれば、その本には手をつけない。

 「図書カードが出会いのきっかけになるアニメ『耳をすませば』みたいに、自分の好きな本を誰かが読んでいたらうれしいですよね。同じ本を読んでいたら仲良くなれそうだし」

 オープンから10カ月が経過し、鎌倉の出版社の本を置いたり、地元在住のアーティストの作品を展示したりするなど、“ゆる連携”にも力をいれている。

 「この地域に本屋はなくなってしまったけど、本が日常的にある空間は大事。住んでいる人が集まれる場所となり、『ここはいい街』と誇りに思える一端になればと思っているんです」

おすすめの3冊

おすすめの3冊

『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(著/影山知明)
JR中央線で乗降者数最下位の西国分寺駅に全国1位のカフェをつくった著者の挑戦が、“理想と現実”を両立させる経済の形を模索する。「この本を読んでいろいろと身につまされました。ここも、経済合理性と古いものを残すことのどちらも実現できればと思いました」

『鎌倉観光文化検定 公式テキストブック』(監修/鎌倉商工会議所、編/かまくら春秋社)
鎌倉に関する歴史、文化、観光、自然などの知識の深さを認定する検定試験の公式テキストブック。「去年、わたしも3級を取りました。この本は店でも販売しています!」

『Webサービスのつくり方 ~「新しい」を生み出すための33のエッセイ』(著/和田裕介)
さまざまなウェブサービスを作り出してきた著者が、「心構え」「企画」「開発」「運用」といった各過程についてエッセー形式で紹介する一冊。「実は兄が書いた本なんです(笑)。でも、ウェブに限らず、広い意味でサービスをつくるためのヒントがあります。私もこの店をつくる上ですごく役に立ちました」

(写真 石野明子)

   ◇

ブックスペース栄和堂(閉店)
神奈川県鎌倉市 常盤60

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<48>絵本と温もりがいっぱい 社会貢献する小さな店

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<50>神保町交差点近くに生まれた、日韓交流の場

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