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<50>神保町交差点近くに生まれた、日韓交流の場

<50>神保町交差点近くに生まれた、日韓交流の場

 神保町交差点にほど近い雑居ビルの中に、小さな韓国の文化の泉がある。そこは、「チェッコリ」という名のブックカフェ。韓国語の小説や絵本、漫画、実用書など約3千冊に加え、韓国語学習書や日本語の韓国関連本などがずらりとそろっている。

 店にはいろんな人が訪れる。韓国語を学習中の人、韓国カルチャーが好きな人、母国の本を求めに来た韓国の人、韓国で売れている本で、日本で刊行できそうなものをリサーチしに来る編集者……。

 ところで、韓国カルチャーといえば、やはり新大久保では? なぜ、店の場所に神保町を選んだのか?

 「神保町が本の街だからです」

 そう話すのは、店を運営する出版社クオンの代表取締役・金承福(キム・スンボク)さん(47)。2007年に神保町で同社を設立し、この店をオープンさせたのは15年7月のこと。

 韓国で生まれ育った金さんはソウルの大学を卒業後、1991年に留学のため来日。卒業後は日本の広告代理店に就職した。

 2000年には社内ベンチャーでウェブ関係の仕事を立ち上げ、順調に業務を拡大。しかし、07年にはリーマンショックのあおりを受け、業績にも深刻な影響を及ぼした。そんな時、金さんは「自分がやりたいことはなんだろう?」と考えるようになった。それは、韓国の文学を日本語に翻訳して出版することだった。

 「この頃、日本は韓流ブームで韓国のドラマや映画、K-POPなどが大人気。韓流への興味がやがて韓国の文学にも流れていくんじゃないかと思って」

 まずは韓国の出版物を仲介するエージェント業務から始め、続いて出版活動も開始。韓国で注目される作家の作品を日本語に翻訳して刊行する「新しい韓国の文学」シリーズを立ち上げた。

 「でも、本を作るだけでは読者が見えません。直接顔を見て届けたいと思い、ブックカフェを作ることにしました。これって、アマゾンにはできない仕事だと思います」

 昨年、日本は韓国との国交正常化50周年を迎えた。しかし、近年の日韓関係は良好なものとは言い難い。

 「それは政治的な話でしょう? 文化的な面では関係なく交流は続いているし、むしろ増えていますよ」

 それは、出版業務や店の運営を通じて、金さんが肌で感じていることだという。「とはいえ、何かと風当たりが強いのでは?」ともう一度聞いてみたものの、「私、大変なことは忘れてしまうし、いいことしか覚えていないんです」と笑顔を見せた。それは決して強がりから来た言葉ではない。

 「日本のいいところは“必ず答えがある”ということ。一留学生だった私が日本で勉強し、就職し、出版社を立ち上げた。誰かが見ていてくれ、そのことを認めてくれる。やった分だけ得られるものがある、外国人にもオープンな社会だと思うんです」

 約25年間、日本で生活しているが、差別を感じたり、壁にぶつかったこともないという。

 「私が差別だと思わないからでしょう。『壁があるからやれない』と思うんじゃなくて、やりたいことをやる。やりたいことを実現するにはどうすればいいか一から考える。やればやるほど答えが出るから面白いんです」

 店がオープンしてから1年。書籍の販売だけでなく、週2~3回のペースでイベントも開催。あっという間に満席になる時も少なくない。イベントがきっかけで店にはさまざまなつながりが生まれ、客同士の交流も活発だ。

 「自分が好きでやっていたら、結果的に日韓の架け橋になっていただけです」

 金さんの笑顔はどこまでも明るく、前向きで、希望にあふれている。それは、この店の居心地の良さにもつながっている。

おすすめの3冊

おすすめの3冊

『酔うために飲むのではないからマッコリはゆっくり味わう (日韓同時代人の対話シリーズ01)』(著/谷川俊太郎、申庚林)
日韓の詩人、谷川俊太郎さんと申庚林さんによる作品集。交互に書いた詩や、対談やエッセーを収録。「以前開催された二人の対談があまりにも素晴らしかったので本にまとめ、日韓で同時に発売しました。谷川さんの詩も韓国に紹介したかったんです」

『未生 ミセン』(著/ユン・テホ、訳/古川綾子、金承福)
会社員の悲哀をリアルに描き、韓国で社会現象を巻き起こしたコミックスで、日本でも『HOPE~期待ゼロの新入社員~』としてドラマ化された作品。「この漫画を読んだ時、『これはすごい!』と思って日本の出版社にかけあい、翻訳も担当しました。本当に面白いですよ!」

『菜食主義者(新しい韓国の文学 1)』(著/ハン・ガン、訳/きむ・ふな)
韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱文学賞を受賞した女性作家の作品。ごく平凡な女だったはずの妻が突然肉食を拒否し、やせ細っていく姿を見つめる夫を描いた表題作他の連作短編集。「これは記念すべき『新しい韓国の文学』シリーズの1作目です。アートディレクションを寄藤文平さんにお願いし、作品のイメージに合わせて描いたイラストも素敵なんです」

(写真 石野明子)

    ◇

チェッコリ(CHEKCCORI) 韓国の本とちょっとしたカフェ
東京都千代田区神田神保町1-7-3 三光堂ビル3F

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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