このパンがすごい!

激戦区に新オープン、気合も手間もおいしさも、ぜんぶ入り / ヌクムク

コッペパン 練乳クリーム

コッペパン 練乳クリーム

■ヌクムク(東京都)

 9月28日、練馬を代表する人気店nukumukuが新オープンした。移転した先は、激戦区・三軒茶屋。メディアに再三とりあげられる有名店が立ち並ぶこの地域に、いわば殴り込んだ形だ。自らのパンを世間に問いたい。与儀高志シェフの意気込みをびんびんに感じる。

店内

店内

 ゲランドの塩と発酵バターコッペ。いかにもやってやるぞという気合に満ちた濃厚な褐色。だが、意外にも頭(こうべ)は低く、食べる前にして沈みぎみである。なぜそうなのか、食べて気づく。あまりにも中身がやわらかいために自らの重みに耐えきれずそうなる。情熱的に甘い香りをまきちらす皮を引きちぎれば、中身は一気に溶け、エアリーというか、まるで嵩(かさ)を感じない。パンの甘さが、前代未聞にじんじんする。それは砂糖の甘さだけではなく、旨味(うまみ)や渋みなど発酵由来の風味が立ち混じるゆえにそうなるのだろう。噛(か)めば噛むほど甘くなり、旨味がぐんぐん沁(し)みだす。

 そこへクリームだ。自家製の練乳クリームもまた気合がびんびんで、ミルキーさを濃厚にふりまきまくる。砂糖のつぶつぶがじゃりじゃり。これが溶ければ溶けるほど、ミルキーさもまた、いや増して感じられる企(たくら)み。気合満点なパンのフレーバーと入り混じり、くんずほぐれつしながらじゅわじゅわと溶け合って、消えていく。

もちもち食パンスぺシャル

もちもち食パンスぺシャル

 気合といえば、もちもち食パンスぺシャルも前のめりである。おいしさのためにすべてやる姿勢。具材ぜんぶ入りのラーメンはよく見かけるが、この食パンの場合、パンの製法がぜんぶ入り。湯種(ゆだね)、長時間発酵、自家培養のルヴァンリキッド、老麺、そして高加水。ありとあらゆる製法をぜんぶ入りさせた結果、どんな食パンになったか。

 そのエアリーさ、ぷりぷりさ、驚天動地。ごはんのようにみずみずしく、噛まなくてもぐにゃりととろけていく口溶けよさ。発酵の香りの心地よさもあって、清らかに思えていた味わいはいつのまにかすごく甘くなっている。その変化は、食パンからブリオッシュ食パンへ、口の中で育ったぐらいに感じられる。耳には、いかにも長い熟成を経たという濃厚な甘さ、旨味、渋み。切って捨てるどころではなく、耳をおかずに中身が食べられるぐらいだ。

もちもち食パンスペシャルを作る与儀高志シェフ

もちもち食パンスペシャルを作る与儀高志シェフ

 与儀シェフがもちもち食パンスぺシャルを仕込むところに立ち会った。こね終わった生地を、ミキサーボウルから、発酵させるための入れ物へ移し替えようと生地をつかみだす。つきたてのおもちかと思うほどぐにゃりぐにゃり、「つかみどころがない」とはまさにこのこと。普通のパン職人なら、面倒くさがって扱おうとしないかもしれない。

 「最初むずかしいかもしれないけど、慣れたらたいしたことないっすよー」と、むずかしい仕事をまるで意に介さない男前ぶり。

 ここ数年の与儀シェフの進境が著しい。素材を生産する農家へ足を運び、フィリングも自家製してパンにする。生産者の思いをパンとして表現したいというやさしさが、ヌクムクをさらなる高みへと押し上げた。

シラネ小麦のクッキーパン

シラネ小麦のクッキーパン

 シラネ小麦のクッキーパンは、長野県上田市の、有機栽培で小麦を作るなつみ農園・宮原さんに捧げられている。ぼうしパンのイノベーション。お菓子パンに誰もが求める心地いいふわふわさに、国産小麦ならではのもちもちを導入する。砂糖の甘さだけではなく、発酵の甘さでやさしくする。クッキー生地に小麦の風味を入れて、味覚へと食い込ませる。なつかしく、素朴。こんなパンを子供たちには食べてほしいと思う。

口溶けブリオッシュ

口溶けブリオッシュ

クロワッサンヌーボー

クロワッサンヌーボー

外観

外観

■nukumuku(ヌクムク)
東京都世田谷区太子堂5丁目29-3
03-6805-5411
10時~19時
月火休

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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