花のない花屋

夫の肺がん発覚、切迫早産、試練が続く家族のために

  

〈依頼人プロフィール〉
山岡智子さん(仮名) 35歳 女性
神奈川県在住
ネイリスト

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今年4月のことでした。ひとまわり年上の夫が、職場の健康診断で肺に影が見つかりました。再検査や検査手術を繰り返し、最終的に下った診断は肺がんのステージ4。あまりのショックに夫婦ともども落ち込みましたが、私はそのとき妊娠7カ月。2歳になる上の子の育児や、2人目の出産を控え、落ち込んでいる余裕もありませんでした。

そして夫の入院中に私自身の体調も悪くなり、夫が退院した翌日に救急で病院へ行くと、今度は私が切迫早産で即入院。

入院は1カ月以上にわたり、その間は自宅休養中の夫と実家の母が家事と育児を担ってくれました。私は点滴の副作用と動けないストレスを抱え、夫は抗がん剤を飲みながら慣れない家事と育児に追われ、子どもは母親のいない生活に耐え……。一家全員が大変な日々をなんとか乗り越えました。

7月末には無事出産をし、おなかの中で頑張ってくれていた赤ちゃんも元気にすくすく育っています。

今は育休中の私も、放射線治療と抗がん剤治療を続け自宅通院している夫も二人とも家にいますが、この夏は家族そろってどこかに行く余裕はありませんでした。「子どもたちと自然でふれあいたいなあ」と夫は折に触れて言っていましたが、しばらくはお預けになりそうです。

みんなが頑張ったこの数カ月。そして、これから先も頑張らなくてはいけない私たち家族のために、前向きな気持ちになれる花束を作っていただけないでしょうか。“家族の絆”をテーマにアレンジをしていただけたうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回のテーマは家族の絆です。家族4人の象徴として、クリーム色のプロテアを4本挿して、そのまわりにエピデンドラム、カーネーションなどをたくさんちりばめました。

リーフワークはリューカデンドロ。少し堅い花弁でとてもよく持ちます。トップに乗せたエアープランツのテクトラムはそのまま育てられますし、プロテアはドライフラワーにもなります。家族の記念として残るお花を意識的に入れました。

困難を乗り越え、前を向いて生きていくためのお花を作れるのは、花屋冥利(みょうり)につきます。きっと、花はそういうときのためにもあるのでしょう。改めて身が引き締まる思いがしました。どうかみなさんで頑張ってください。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

夫の肺がん発覚、切迫早産、試練が続く家族のために

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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