花のない花屋

家族が壊れそうな時、そばで支えてくれたおばあちゃんへ

  

〈依頼人プロフィール〉
宮野泉さん(仮名) 20歳 女性
山口県在住
大学生

    ◇

今から5年ほど前。私が高校1年生のとき、父親が仕事上のストレスで精神のバランスを崩し、2年間休職することになりました。新築の家を建てたばかりだったので、母親は「自分が家庭を支えなくては」と、それまで以上に働くようになりました。

会社員だった母は残業や接待が多くなり、なかなか家に帰ってこない状況が続きました。接待の意味がよくわかっていなかった私は、反抗期だったこともあり、「今日も飲み会行くんだ」と母親に反発。それまでは仲が良かった家族なのに、けんかが絶えなくなり、次第にギクシャクするようになりました。

そして翌年になると、今度は母親が倒れてしまいました。忙しすぎたために、体調が悪いときも無理して働き続け、病気を発症してしまったのです。自暴自棄になった母は、休職中だった父に「あなたは仕事してないんだから、家事くらいしてよ」と文句を言うこともありました。当時16歳だった私は「これからどうなっちゃうんだろう」と、不安でいっぱいでした。

そんなとき、いつも家族の仲を取り持ち、私のそばで支えてくれたのは、隣に住むおばあちゃんでした。受験を控え、いっぱいいっぱいになっていた私を心配し、母の代わりにご飯を作り、電車通学だった私を3年間駅まで車で送り迎えをしてくれました。朝は6時半に家を出て、帰宅は22時すぎです。70代だったおばあちゃんにはかなり大変だったはずです。

「もう目が見えにくいから、遅い時間帯の運転は怖いわ」と言いながらも、嫌な顔ひとつしません。父と母は到底私の送迎などできる状態ではなく、申し訳ないと思いつつも、おばあちゃんを頼るしかありませんでした。

今は幸い父も母も元気になり、仕事にも復帰しています。でも、おばあちゃんにはきちんと感謝の思いを伝えてきていません。いつもたくさんの愛で包んでくれるおばあちゃんに、明るい気持ちになれる花束を作ってもらえないでしょうか。

おばあちゃんは今年83歳になります。趣味は花を生けたり、園芸をすることで、家にはたくさんの花が咲いています。特にラナンキュラスとトルコキキョウが好きなので、そういった花やピンクやオレンジなどのビタミンカラーでまとめてもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

エピソードの文面から、あたたかく優しそうなおばあちゃんのお人柄を感じたので、ピンク色でまとめることにしました。

この時期、残念ながらラナンキュラスはなかったので、トルコキキョウをメインにアレンジしています。元気な気持ちになれる花束をというリクエストもあったので、ジニア、ケイトウ、ネリネ、アスチルベ、ガーベラなど、薄いピンクと濃いピンクをバランスよく混ぜ合わせ、メリハリをつけています。

ピンクの華やかさを全面に出したかったので、リーフワークはあえてはずしました。横から見ても真上からも見ても楽しめるアレンジになっています。おばあちゃん、よろこんでもらえたでしょうか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

家族が壊れそうな時、そばで支えてくれたおばあちゃんへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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