ほんやのほん

読書と芸術を同時に満喫する、欲張りな2冊。『若冲』『蔦屋』

若冲


撮影/馬場磨貴

若冲


『若冲』 澤田瞳子・著 文藝春秋 1728円(税込み)

蔦屋


『蔦屋』 谷津矢車・著 学研パブリッシング 1404円(税込み)

 「天高く馬肥ゆる秋」、秋が深まる11月、優しい日射しの青空に秋風がとても心地良い季節ですね。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋……誰もが何かを楽しんだり、何かに挑戦したりしたくなります。みなさんはどんな秋を満喫していますか? 今回は本屋らしく読書の秋はもちろん、芸術の秋も欲張ってご紹介しようと思います。

伊藤若冲は、なぜ描いたのか
『若冲』

 今や知らない人はいないと言っても過言ではない伊藤若冲。2016年は生誕300年を迎え大ブームの画家です。東京都美術館で開催された若冲展ではなんと320分の入館待ちになったとか! そんな若冲の尾から足の先まで精気の宿った濃彩あでやかな鶏、誰もが魅了され熱狂するこの作品たちはどのように生まれたのでしょうか。
 澤田瞳子の小説『若冲』には、絵師・伊藤若冲が生きています。「世に二つとない絵を描く」と称賛されながらも、若冲が作品に向かう姿は深く重く、まるで苦行のよう。若くもないいい大人の若冲を、なんだか放っておけない気持ちになってきます。しかし最後にたどり着いた「描く理由」は晴れやかでとても心にしみました。
 また、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭など同時代の絵師たちが続々と登場するところも魅力的です。ぜひとも、画集を片手に読んでいただきたい一作です。

文化を支える江戸の本屋
『蔦屋』

 現代の本屋といえば「本を売っている」ところですが、江戸時代は随分と様子が違い、編集・製本・小売りと、本に関わること、すべてを行っていました。
 絵師や作家を見出し育てる、摺(す)り師や彫師、紙すき職人などを抱え、出来上がった本を店先で売る、そんな江戸の本屋に「蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)」という人物がいました。谷津矢車の小説『蔦屋』の主人公です。
 吉原で成功していた重三郎は一流版元が並ぶ日本橋の潰れた本屋を店主・職人ともども買い上げ、「吉原を出て名を上げた奴はいない」と揶揄(やゆ)されながらも、斬新な企画を打ち立て、庶民の関心をあっという間に集めていきます。ひらめきとアイデア、そして心意気、本を届けたいその情熱に共感します。
 見出した絵師のひとりが喜多川歌麿。葛飾北斎と並ぶ代表的な浮世絵師です。重三郎と歌麿は幼なじみ。近付いたり離れたりの不器用な1対1の関係が【喜多川歌麿】という絵師を作ったように思います。こちらもぜひ画集とともに(あるいは江戸人物辞典などと共に)お楽しみください。
 どちらも小説(フィクション)です。つまりは作り物です。何百年も昔の人が考えていたことなど、私たちには知る由もありません。私たちにできることは想像することです。小説に出てくる人々はみんな現実世界で生きているかのように身近に感じられます。小説を読んでいると、若冲も歌麿もどんな絵を描いていたのだろうかと想像が膨らみます。小説(フィクション)から絵画(ノンフィクション)へと好奇心が広がる、そんな楽しさをぜひ味わってください。

(文・小谷野 純子)

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき一番おすすめの本を、週替わりで熱くご紹介いただきます。

●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)
松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/藤井亜希子(旅)
羽根志美(アウトドア)/八木寧子(人文)
若杉真里奈(雑誌 ファッション)

小谷野純子(こやの・じゅんこ)

二子玉川蔦屋家電、人文コンシェルジュ。
哲学・宗教をはじめ、日本文化、文芸等幅広く担当。本好きが高じて本屋へ転職し、書店員歴は早8年。
新たな世界との出会いのきっかけに「本」をご提案していきたい。

人は住む場所をどう決めるのか。『東京どこに住む?』ほか

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一度も食べたことがない料理を、味わう。『紅茶と薔薇の日々』

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