花のない花屋

天国の夫と義理の両親へ 思い出の赤いバラを

  

〈依頼人プロフィール〉
佐伯有香さん(仮名) 46歳 女性
神奈川県在住
派遣社員

    ◇

今から10年前の9月、夫は36歳という若さで天国へと旅立ちました。心筋梗塞(こうそく)による突然死です。私たちは26歳で結婚し、10年間一緒に生活してきました。ある日突然、彼がいなくなり、一人になった私はどうしたらいいのかわかりませんでした。もっとできることがあったのでは……と後悔がつのり、将来の夢も希望も描くことができず、さみしくてつらい日々が続きました。

あれから10年が経とうとしています。家族や友人にあたたかく見守ってもらった10年でした。数年前には新たなご縁があり、再婚もしました。でも、再び幸せな気持ちになるほどに、亡くなった彼のことを考えてしまいます。彼も、もっと生きたかったはずなのに、自分だけ再婚をするなんて……。すっきりとしない複雑な気持ちでした。

でも彼のご両親に報告をすると、二人は心からよろこんでくれました。それまで彼のことを思い出しつらくなるたび、二人のところへ行き一緒に泣いていました。いつも帰り際、義母は「絶対にまたいいことがあるから。また幸せになれるから」とやさしい言葉をかけてくれました。再婚が決まると、義母は「これからは今のご主人の両親を大切にしてね。もう私たちは今日で会うのをやめましょうね」と言いました。

新しいご縁は、天国の彼が導いてくれたのかなと思っています。今年の命日には、幸せにしていますという報告をしたいと思います。彼とのウェディングパーティーで飾った赤いバラを持って……。
いつも天国から見守ってくれている彼と、また彼が亡くなってからも私の幸せをいつも願ってくれていた彼の両親へ、感謝の気持ちを込めてお花を贈りたいです。赤いバラを使い、見るだけで元気になれるような明るい花束をお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

亡くなった彼と彼のご両親へ赤いバラを束ねました。赤一色ですが、実は3種類のバラを使っています。一つは、ガーネットジェムというスプレイ咲きのバラ。これは花ごとに細かく分けて差しています。もう一つは、ベルベットのような質感のサムライという種類。そしてカップ咲きのファンファーレ。どれも微妙に色調が違うので、バランスをとりながら差していきました。

リーフワークはポリシャスの葉です。縁がギザギザしていて固く、ボリューム感がありますが、バラを引き立てるように差しました。全体的にシンプルで品がある落ち着いたアレンジにまとまりましたが、彼のご両親はよろこんでくれたでしょうか……。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

天国の夫と義理の両親へ 思い出の赤いバラを

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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