川島蓉子のひとむすび

<4>皆川明さんが呼び寄せた、心地よいものたち ~call(前編)

コール1


東京・青山の表参道スパイラル5階にある「call」入り口風景

コール2


中央スペースから窓の向こうにテラスが見える、明るい空間

コール3


ドイツ・ポツダムからやってきたカヌー

コール4


カフェの天井は大きな釣り鐘のようなドーム状のかたち。もともとの構造を生かし、ミナ ペルホネンのテキスタイルパターンを張った

コール5


カフェ「家と庭」全景

コール6


3種類のスープから選べるランチセット。写真は「白のスープ」セット 1300円(税別)。月曜日と火曜日は、おにぎりの日、水曜日~日曜日は、スープの日(メニューは季節によって変わります)

コール7


リチャード ジノリ(Richard Ginori)の器類。写真左が上から パスタ皿 1万3000円、平皿 1万5000円、2万1000円、写真右が上から パスタ皿 1万3000円、平皿 1万5000円

 表参道交差点のすぐそば、青山通りに面して老舗の風格を備えている建物がスパイラル。その5階が「call(以下、コール)」というお店に生まれ変わりました。皆川明さん率いる「minä perhonen(以下、ミナ ペルホネン)」が手がけたもの。最初に皆川さんから話を聞いた時、あれだけ広い空間を使って、どんな面白いモノやコトを生み出すのだろうとワクワクしました。
 
 オープンしたのは7月のこと。エレベーターの扉が開くと、ホテルのロビーのような空間が――たおやかに咲き誇っている花や植物を描いた壁画が現れ、特別な場に招かれたようなぜいたく気分が広がっていきます。そして、回廊のような通路を通っていくと、魅力的なコーナーが次々と現れるのです。

ライフスタイルショップとは違う、ある空気

 並んでいるのは、服、食器、生活雑貨、家具、インテリアテキスタイルといった暮らしを取り巻くものの数々。ロシアや米国のものもあれば日本のものもある、ヴィンテージのものもあれば現代のものもある、一点ものもあれば大量生産品もあり、商品の幅は広いのですが、全体としてひとつのまとまり感があるのは、根底にある考え方がしっかりとあるから。

 「何によらず、私たちの生活にあると心地よいと思う、さまざまなものを呼び寄せて紹介する場」と皆川さんは言います。機能の便利さ、価格の安さ、流行の最先端といったことだけを価値にするのではなく、一過性ではなく長きにわたって愛用できる、使いながら豊かな気分になる――そういった価値を持ったものを丁寧に集めて売るお店がもっとあればいいのにと思っていたので、「コール」の土台にある考え方に大賛成!と大きくうなずいてしまいました。

 さて、中央の広々としたスペースは、窓の向こうにテラスを備えた明るい空間。テーブルにアクセサリーや眼鏡が並び、壁際にはとりどりの服が下げられ、反対側には大きなカヌーが置かれています。カヌーの中にもさまざまなプロダクトが置かれ、足元には1880年代後半のガラスブロックが――じっくり眺めながら、お店の人と会話しながら、いつの間にか時を過ごしてしまいます。

 街中には、ライフスタイル提案型のお店がどんどん増えていますが、いわゆる“ほっこりしたゆるさ”とか、“マニアックな緊張感”が漂っているところが多いと感じてきました。ここは、そのいずれとも違い、ある思いを伝えたい、誰にでもひらかれた場を作ろうという気持ちが、押しつけがましくなく伝わってくる場なのです。
 チャーミングなものがたくさん並んでいるのですが、中でも気に入ったのは、リチャード ジノリ(Richard Ginori)の器類。皆川さんが描いた絵柄をイタリアの職人さんが手描きしたもので、スタンダードなかたちに手仕事が加わった風情が「わが家の食卓で使ってみたい」という気持ちをかき立てます。

 「ミナ ペルホネン」の布も売られています。壁面にずらりと並んでいるシーンは、ちょっと圧巻。お店の人に頼むと、丁寧に説明しながら広げてくれ、好きな分量だけ測って切り分けてくれます。クッションカバーにしようか、小さなトートバッグにしようかと、思いめぐらせながら布を選ぶのは、手を動かす楽しさにつながります。
 巡っていくと、野菜やグローサリーを売っている小さなショップがあり、カフェ「家と庭」もしつらえてあります。新鮮で安全な野菜を使ったスープなど、「家族を思ってつくるような、気持ちの伝わる料理」や、丁寧にいれたコーヒーなど、ゆったりくつろげる普段使いが魅力的。見上げると、カフェの天井は、大きな釣り鐘のようなドーム状のかたちで迫力いっぱい――もともとの構造を生かし、「ミナ ペルホネン」のテキスタイルパターンを、無数の三角形の連なりで埋め尽くしてあるのです。手間を惜しまず丁寧に作り上げた細工に見入ってしまいます。
 「コール」は、どこに身を置いても、景色に一貫した空気が流れています。その一部をなしているのは、お店の人たちの気配。さまざまな人生経験を持つ20~80代のスタッフたちが、いきいきと立ち働いているのです。そう、ここはまた“働き方”について、新しい工夫が盛り込まれた場でもあります。次回は、そのあたりを詳しくお伝えしていこうと思っています。

■call(コール)
東京都港区南青山5-6-23(SPIRAL5階)
http://www.mp-call.jp/

>>後編へ続く

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PROFILE

川島蓉子

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

<3>設楽社長がチームと突っ走ったプロジェクト~新宿「ビームス ジャパン」(後編)

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<5>皆川明さんが“命”について考え続けてきたこと ~call(後編)

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